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二重人格

 外の吹雪はいつの間にか収まり、今は静かに雪が降っている。あの女もいつの間にか部屋からいなくなっていた。


 俺は何をやってるんだろう。去年―――いや、ずっと昔から、俺は間違いを起こし続けている。やらなくてもいい事、出来もしない事、責任を持てない事。


 これまでの十六年、俺は何か正しい事をしただろうか。


 誰かの得になる事を。

 自分の為になる事を。


 全て、無意味だ。何の為に生きていたか思い出せない。そもそも、そんな高尚な目標を抱えていたかどうかすら怪しい。ただなんとなく生きていただけな気がする。


 そんなんだから、他人の人生を狂わしたんだ。


 俺がいなければ、タケシの周りには人が集まっていた。

 俺がいなければ、リンは人を引っ張っていける目標になれた。

 俺がいなければ、花咲さんは余計な事を覚える事はなかった。

 俺がいなければ、アオは生き続けていた。

 俺がいなければ、両親は荷物を背負わずに済んだ。

 

 死んでいい人間はいないが、いない方が良い人間はいる。将来性と生産性の無い人間は、放置しておくだけでも不利益になる。だから自殺や他殺が起こるんだ。人が死ぬと、死んだ人に何かしらの感情を覚える。良いも悪いも様々だが、大事なのは中身ではなく、そうさせる人の心の数。感情は放置すると腐るが、死は特効薬であり、その点でいけば誰かの死は誰かの救いになる。


 でも、それが邪魔になる時がある。逃げたい時だ。目の前の理不尽で残酷な事実から遠くへ逃げたいが、そこへ逃げれば誰かが気付き、感情を吐く。それが嫌なんだ。俺なんかを価値化させないでほしい。ゴミとして扱われても、俺にとっては身に余る価値だ。


 こんな自己否定、ただ死にたくないだけの言い訳だ。自分で自分を傷付けて、それで自分を許そうとしている。怖いとか、そういう感情の話じゃない。そういう慰め方に慣れてるんだ。


 アオ。アイツ、本当に死んでしまったんだろうか。あの女に、殺されてしまったんだろうか。


『自分の心配をしたらどうだ? ここから出る算段はあるのか?』


「……出て、どうするんだ?」


『確かめるんだ! たったそれだけ! 生きてるか死んでるかだ。重く捉えてるからそうなってるんだよ。もっと気楽にいこう。そもそも、気にするほどアオは大事な存在だったか? もっと大事な人がいるだろ』


「……お前は誰だと思ってる?」


『自分さ。他人の生死よりも大事なのはいつだって自分自身さ。自分さえ良ければそれで良い。それが、人間というものだろ。これは暴論だとか自論じゃない。確かな事実だ。歴史や文化を持ち出すまでもない、当たり前の事だ』


「……じゃあ、どうして俺に話しかける? どうして俺を気遣うんだ?」


『俺はお前で、お前は俺だ。俺はお前が生み出した幻なんかじゃない。俺もお前なんだ。さっきまで散々繰り返していた自己否定の延長線上なんだよ』


「なら幻じゃないか」


『いい加減にしてほしいな。そういう突っかかり癖が、自分の首を絞めてると認めろよ。物事は単純なんだ。1+1が2である事を疑うな』


「……アオは死んでる」


『そうだな。あの女、狂ってるが妄想に囚われてるわけじゃない。他人とそりが合わないだけなんだ。あるいは、合わせないようにしてるだけか』


「死んだ赤子が原因か?」 


『原因はもっと前かもしれない。あの女は「ずっと独りだった」と口にしたが、じゃあ赤子はどうやって出来た? もう子供じゃないんだ、分かるだろ』


「……そういう事か。俺と違って、あの人は女だもんな。こんな事知って、何になるっていうんだ」


『ここから出る為に必要な事だ。彼女が欲してるのは理解者。彼女の気が済めば、俺は晴れて自由の身だ。ここから出れば、もう関わる事も無いだろう。アオの事は一旦忘れて、彼女を肯定するんだ』


「……自分の為にか」


 そうだ。その通りだ。何をするにしても、このまま閉じ込められていては何も出来ない。役立つものだな、自己否定。  

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