憶えのある痛み
明日、雪が降るらしい。その前触れか、今日は晴れているにも関わらず空気が冷たくて寒い。明日はより一層寒くなるだろう。
そんな事だから、みんな休み時間でも教室に残っている。暖房が効いた教室は暖かく、女子なんかは暖房の前に陣取っていた。廊下は外のように、あるいは外よりも寒く、教室から廊下に出た際の寒暖差に思わず声を出す人も多々見られた。
午後の授業が始まる少し前。花咲さんからメッセージが届いた。
【今日は寒いので、明日買い物します】
「明日は雪だってのに……」
明日に後回しにするのが最近の花咲さんの口癖だ。前よりは家事をするようになったものの、こういう言い訳じみた口癖が出来てしまっては、成長したように思えないな。
授業が始まる前に携帯の電源を切ろうとしたその時、ふと位置情報アプリの存在に目がいった。あの日以来、アオの見舞いに行っていないが、あれから何事も無いだろうか。
少し、心配になってきた。
「……ん?」
位置情報アプリからアオの居場所を見ると、現在位置は病院ではなく、何処かの建物を指していた。そこは病院からかなり離れており、外出というわけではなさそうだった。
「……なぁ、タケシ」
「どした? お前、今から授業なんだから携帯切れよ。見つかったら没収されちまうぞ?」
「……悪い、早退するわ!」
「え!?」
「適当な言い訳、頼んだぞ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
学校を飛び出し、位置情報アプリが指した場所へ向かった。外は朝よりも肌寒くなっていて、吹く風に耳が痛い。
それとは別に、俺の背中に嫌な寒さ。悪寒と言うべき気持ちの悪い寒さがジワリと蠢いている。吐き出したい気味の悪さを抑え、アオのもとへと急いだ。
位置情報アプリが指していた場所へ着いた。どれほどの距離を走っていたかは分からないが、ここら辺は来た事も無い場所。マンションやアパートがそこら中にある。
携帯の位置情報から具体的な場所を探していくと、二部屋しかないアパート。部屋数は少ないが、二階もある事から部屋の広さはちょっとした一軒家だろう。
このどちらかにアオがいる。だが、どうやって聞けばいいのだろう。
その時、右側の部屋の扉が開いた。中から現れたのは、アオに好意を寄せていた看護師だった。私服姿ではあるが、アパート前で立ち止まってる俺に向けた愛想の良い笑顔でハッキリとした。
彼女は特に俺に疑問を抱く様子も無く、軽く頭を下げて出掛けて行った。
扉が少し開いていた。どうやらちゃんと扉を閉められていなかったようだ。
俺は迷わず部屋の中へ入った。別に盗みを働くわけじゃないし、アオがいるかどうかだけを確かめたいだけ。
そんな風に自分の行動を正当化させて部屋に入ると、やはり中は広かった。自分の家のリビングほどの広さに、トイレと浴室以外に部屋が二つ、二階へ上がる階段。玄関には靴は無く、靴箱には彼女が履くと思われる靴がいくつかある。
部屋を見て回ったが何処にもアオの姿は無く、次に二階に上がった。二階は奇妙な造りになっていて、階段を上った先は長い廊下の先の左右に部屋が一つずつあるだけ。左側の部屋は鍵が掛けられていたが、右側の部屋の扉は開けられた。
部屋の中に入った瞬間、その異様な光景に思わず目が見開いた。
檻だ。犬や猫を入れるような小ささではなく、牢獄のような檻が扉のすぐ先にある。
檻の中にある毛布が蠢いた。何かが毛布にくるまっている。
「アオ?」
そう呟いた矢先、憶えのある鈍い痛みが後頭部に走った。意識外からの一撃に全身の力が抜けていき、耳鳴りで何も聞こえない。
「―――」
誰かが何かを言っている。そういう音がするだけで、具体的に何を言ってるのかは分からない。
もう、限界―――




