隠し切れない想い
病院帰りに弁当屋を見つけた。チェーン店だろうか。個人店だろうか。中の様子を見るに、チェーン店風だ。花咲さんに【弁当。何?】とメッセージを送ると【当ててみて】と返ってきた。のり弁でいいか。
中に入り、手早く注文を済ませて注文待ちの椅子に座った。貰ったレシートを見ると、のり弁一つ四百五十円。まぁ、妥当。安くも高くも無い。弁当の中身によって高い安いは変わるが、のり弁なんてほとんど中身に違いは無い。
そうして待っていると、一人の背の低い少女が店に入ってきた。なんとなく注文する後ろ姿を眺めていると、手や服のあちこちに絵の具の汚れがあった。
注文を終えた少女がこちらに振り返ると、ほぼ同時に同じ声が出た。
「「あ」」
リンだった。髪を下ろしてる姿が珍しく、一目で分からなかった。
リンは一瞬だけ笑みを見せると、すぐに絶交している事を思い出してムスッとなった。俺の隣に座った後、更にその隣の椅子に座り直すと、後ろ髪をわざわざ左側に寄せて俺から顔を隠した。
「絵描きは楽しい?」
リンは無言を貫いた。しかし体は反応しており、手や足をパタパタとさせている。
「自炊出来るのに弁当買うなんて、作業部屋に入り浸ってるのか?」
やはりリンは何も言わない。そして手足をパタパタさせ、こっちに顔を向けようとしてやめるの繰り返し。俺が原因とはいえ、律儀すぎるな。
リンの隣に移動すると、リンは逃げるように更に隣へ移動し、そうして壁際まで追い詰めると、もはや壁に寄りかかっていた。
「……絶交はやり過ぎじゃない?」
「……答えは、出たんですか?」
「ああ。あともう一息って所。優秀なカウンセラーが友人にいて助かったよ」
「……じゃあ、友人に戻ります」
「そうした方が良い。それにしても、よく学校側が許可してくれたな。うちって美術部なんかあったっけ?」
「ないですよ。ほら、僕って優等生ですから。少しのワガママくらい通るんです。僕の描いた絵、見てくれましたか?」
「ああ、写真で。上手いけどさ、もっと良くなれるよ」
「分かってますよ。あれはお遊びですから」
お遊び? あの絵が?
まぁ、それもそうか。本来なら絵描きの専門学校に行ける十分な才能と成果があるのに、俺なんかを追っかけて普通の高校に来たんだもんな。
「またコンテストに出る気はあるか?」
「無いですよ。僕の絵はたかが知れてます。僕の絵って、上手いだけじゃないですか。先輩のように芸術性っていうか、特別な何かを宿す事が出来ないんです」
「今回は感情が乗ってたよ。まぁ、全部暗いものばかりだったけど」
「誰の所為だと思ってるんですか。先輩にはお詫びとして、本気で絵を描いてもらいますから」
「えぇ……俺、もう三年も描いてないよ? 道具だって捨てたし」
「道具ならお貸しします。だから、早く花咲先輩と決着をつけて、僕の為にワガママを叶えてください!」
その時、弁当が出来上がった。何故か後から来たリンの方が先に出来上がったようだ。リンは弁当を受け取ると、そのまま店を出ていった。
一人残されると、携帯にメッセージが届いた。見ると、リンからのメッセージで【楽しみにしてます!】と送られていた。
ふと後ろに振り返ると、ガラス壁の向こうでリンは立ち止まっていた。リンは携帯で口元を隠しながら、隠し切れない笑顔を見せると、小さく手を振りながら去っていった。
絵。それも本気で、か。リンと関係を戻したのは山々だが、そうなると本気で絵を描かないといけないのがノイズだ。中学のあの頃から少しは精神的に成長したと思いたいが、果たして出来上がった絵に納得出来るだろうか。
そもそも、俺が本気で描きたいと思える題材が問題だ。今の俺が題材にするのなら、間違いなく花咲さんになる。それはリンにとっても、花咲さんにとっても、複雑な心境になりかねない。




