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脳と心


「階段から突き落とされた? アオが? ふーん」


 アオの様子を花咲さんに話してみたが、予想通り淡泊な反応だ。産まれてから将来を決められていたとはいえ、それは親が悪いのであって、アオは何も悪くない。あるいは、それとは別でアオを嫌う理由があるのだろうか。


「入院し始めた頃より、ずっと重症だったよ。アイツなら女絡みの問題をそつなくこなせるもんだと思ってたが」


「今までたまたまだったんだよ。心に決めた人を一人に絞らず、次から次へと別の人と遊んでさ。あんな男、死んじゃえばいいんだよ」


「一応は幼馴染でしょうが。少しは心配しなよ」


「自分で墓穴掘ったんだから、心配するのは違うよ。それより、カナタ君。カナタ君はどっちが好き?」


 そう言って見せてきた携帯の画面には、哺乳瓶が映っていた。


「……あのさ、こんなの調べる余裕があるなら学校行きなよ」


「でも、カナタ君には必要な物だよ。またああなったら、これであやさないと」


「……来週までに荷物まとめておいてね」


「そんな見え透いた脅し、意味無いよ。フフ……え、本気?」


「荷物まとめながら考えなよ」


 花咲さんの肩に手を置いた後、自室に戻った。またあんな風にイジッてきたら、本当に追い出そうかな。


 翌日、学校の美術室に行列が出来ていた。列に並ぶ男子に聞いたところ「突如としてプロの絵画が展示された」との事。その男子に中の様子と絵画を撮ってもらい、戻ってきた彼から写真を見せてもらった。 左出入り口から右出入り口に流れていく列が出来ており、その道中に六つの作品が展示されていた。作者と作品の名前は無く、ジャンルはバラバラ。確かな事は、学生が描ける絵のレベルではない事。


 リンだ。リンが描く絵には、必ず何処かで指を筆代わりに使う。中学時代のただ上手い絵とは違って、感情が乗せられた絵だ。全体を一つにしないで、違和感を添えればもっと良くなるな。というか、もっと明かるい絵を描けよ。


 作業部屋を探すと言っていたが、まさか学校の美術室を使ってるのか。ぜひ作業風景を眺めたいところだが、あいにく絶交中だしな。


 放課後。病院に着いてからアオにメッセージを送った。しばらく待つと【午後四時から五時までなら大丈夫】と返ってきた。時刻を確かめると午後四時になったばかり。なら大丈夫かと、病室の扉を開けた。


 ベッドで横になっていたアオは、返信を送ってすぐに訪ねて来た俺にビックリした様子を見せ、すぐに不機嫌になった。


「お前、見舞いに来てやった人に対して失礼だぞ」


「……あのね、連絡を入れるっていうのはこれから向かうと同義なんだ。それを君、もう着いてから連絡するのはどうなんだい? 常識知らずにも程がある」


「調子良さそうだな。怪我も……うん、増えてないな」


「昨日の今日で怪我が増えてたら、それはもう個人の良心で隠し通せるものじゃないよ。見舞いの品は?」


「無いよ、そんなの」


「何をしに来たんだ……」


「見舞いに決まってんだろ。ついでに相談も」


 ベッド横の椅子に腰を下ろした。アオは眉の上を指で掻いた後、携帯のメモ帳アプリを開いた。


「君の相談。二次元を三次元にという無理難題を僕なりに考えてみた。単刀直入に言うと、それは不可能だ」


「本当に考えたのか?」


「考えたさ。そして考えた結果が不可能なんだ。ただね、僕は解決法はあると思うんだ。君のそれは実現不可能ではあるけど、一つの結論で解決出来る」


「つまり、精神の問題か」


「そうだ。そこで君には、赤裸々に語ってもらう。何故このような馬鹿げた悩みを抱えたのかを」


 俺はアオに話した。花咲さんを見つけた去年の春から、この前の土日の出来事まで。アオは聞きながら呆れた表情や難しそうな表情を浮かべたが、話を遮るような事はしなかった。


 話し終え、少しの間が空いた後、アオはたった一言呟いた。


「君のそれは異常なんかじゃない」


 その言葉に、ほんの少しだけ安心した。そうしてすぐ、反論が口に出た。


「だが、俺は彼女を作品として好きなんだぞ? 人間を作品と評するのは異常じゃないのか?」


「例えば、君の大好きな映画だ。映画には俳優や女優がいて、彼ら彼女らは役を演じる。ほとんどの観客は演者である彼ら彼女らではなく、その役に好意を抱く。脳が同一人物としてではなく別々に考えているからだ。君のそれは、こういう原理と同じ」


「手放せないのには、どういう意味がある?」


「距離の問題だ。近付き過ぎた所為さ。それで君は、脳と心の好意がどっちつかずになってる。脳と心の好意。簡単に言ってしまえば、好きと愛してるの違いだ。脳は全てにおいて平等。心は特定の対象。君はハルと関わり過ぎた所為で、心が脳に影響されているんだ」


 かなりスピリチュアルだが、なんとなく理解出来る。リンと花咲さんの二人が好きでも、恋人は依然としてリンだ。たまに好きが上回ったとして、花咲さんを恋人にしたいとは一度も思った事が無い。


 二人に対する好意の違いは分かった。


「じゃあ、俺と花咲さんは、どういう関係なんだ?」


「それは自分で考えろ。関係なんてものは、自分自身でしか決められない。他人に押し付けられた関係なんて、乗り気にならないさ。僕とハルのようにね」


「そうか……ありがとう。大分助かったよ」


「あとは、君自身の問題じゃないかな?」


「……というと?」


「君はいささか、物事を深く考え過ぎる癖がある。浅い関わりの僕でも分かるくらいにね」


 その時、アオの携帯からアラームが鳴った。アオはアラームを止めると、携帯の画面を俺に見せた。


「時間だ。あと少しで彼女が来る」


「そうか。もうか。楽しい時間はあっという間だな」


「どこが楽しい時間だ。退院したら、僕に謝礼を送るんだね。贅沢は言わない。一日中、君を独り占め出来る程度で良い」


「分かった。楽しみにしてるよ」


 椅子から腰を上げ、病室の扉を開けた。


 すると、扉の前にあの看護師が立っていた。看護師は一瞬だけ真顔になると、すぐに愛想の良い笑みを浮かべた。


 廊下を歩きながら、携帯の位置情報アプリをいれた。病院から出て少しした所で起動し、アオの電話番号から接続した。細かな情報ではないものの、アオの携帯はこの病院にある。


 あの時、アオが見せた携帯には、位置情報アプリのマークが画面上に表示されていた。だからといって、位置情報を接続しろと言われたわけじゃない。なんとなくやっただけだ。


 ただ、接続を切るつもりが起きない。何か胸騒ぎがして心配だ。


「杞憂で終わればいいが……」 

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