表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

乙女

 リンと再会してからというもの、席が離れたタケシ以上に接する機会が多くなった。昼休みは一緒に弁当を食べ、放課後は途中まで一緒に帰る。まるで中学時代に戻ったようだった。


 その所為で、花咲さんと接する機会は減っていた。朝の挨拶と帰りの挨拶、たまに世間話をする程度。まぁ、彼女は恋人持ちなのだから、本来はこの程度の関係が適切なんだ。


「せんぱ~い! 今日も帰りましょ!」


「おう。じゃあ、花咲さん。また明日」


「うん……また、ね」


 一つ気がかりなのは、花咲さんが恋人との悩みを溜め込まないかだ。俺以外に悩みを打ち明けられる人が見つかっていればいいが。


 下駄箱で靴を履き替え、リンと一緒に校舎から出ると、ちょうどランニングしていたタケシと出くわした。


「お、カナタ! そんで隣のチンチクリンは、リンだな!」


「誰がチビだ!」


「アッハハ! カナタから話は聞いてたが、お前も俺達の高校に来たんだな! お前ら少し待ってろよ。   久しぶりに三人で帰ろうぜ!」


「少しって、今さっき部活が始まったばっかりですよね? 僕、待つの嫌いなんで。僕ら二人で帰るんで、タケシ先輩は大好きなボールを犬みたいに一生追いかけててください」


「カナタ~、後輩が冷たい……! 反抗期かしら?」


「キモい」


「酷いわ二人共! エッ、エン、エ~ン!!」


 タケシは最後まで気持ち悪さ百点満点で去っていった。


「嘘泣きですかね……?」


「いや、あれガチ泣きだったぞ……」


「タケシ先輩って、どうしてあんなキモい才能があるんですか? 黙ってればイケメンでしょうに」


「あれでモテるんだから、人って不思議だよな」


 気を取り直して、リンと二人で下校した。リンは中学の頃からそうだったが、歩くときに腕に引っ付く癖がある。これがタケシなら叩いて離すが、リンの場合だと懐いてくれてる犬みたいに思えて、離す気さえ起きない。


 ふと、自分の教室の窓に視線を向けると、花咲さんが窓を開けて外を見ていた。その視線は空にではなく、どうやら俺達の方に向けられている。


「先輩? どうしましたか?」


「……なんでもない」


 いくらリンが可愛い後輩とはいえ、他人からしたら同性同士で腕を組んで歩くのはちょっと変なのだろう。それか、花咲さんもリンと腕を組んで帰ってみたいと思ってるのだろうか。それはそれで、今度は彼氏持ちが後輩の男子と腕を組む事になり、爛れた関係に見えてしまう。 


 リンと昔の話をしながら歩いていると、商店街の肉屋にリンは目を輝かせた。


「先輩! ちょっと待っててください!」


 そう言ってリンは肉屋に入ると、両手に包み紙にくるまれたコロッケを手にしながら戻ってきた。


「これ食べながら帰りましょ!」


「コロッケか。いきなり肉屋に入ったから、晩ご飯の食材でも買うのかと思ったよ」


「お肉を買うのは顔馴染みになった後です。スーパーとかと違って、こういう個人店はよく来てくれる人にオマケをつけてくれるんですよ。それまでは一個八十円のコロッケを買い続けます」 


「まさか、毎日コロッケ買ってくつもりなのか? メンチカツとかもあるだろ」


「メンチカツは百二十円。四十円も違います」


「たった四十円の差だろ」


「先輩、数十円の差っていうのは長期的に見れば大きな差なんですよ?」


「そこまで考えた事なかった。俺が就職したら、お前にお金の管理を任せた方が良いかもな」


「イヒヒ! お金だけじゃなく、家事も育児も僕に任せてくださいよ!」


 リンからコロッケを貰い、一口食べてみた。揚げたてのコロッケは総菜のと違い、サクサクでジューシーで、美味しいコロッケだ。これで一個八十円なら、毎日買って帰る価値がある。


「美味しいですか? 先輩」


「美味いな。俺、いつもシナシナのコロッケしか食ってなかったから、揚げたては新鮮だ。全然違うもんだな」


「僕が作るお弁当とどっちが美味しいですか?」


「お前の弁当に決まってるだろ」


「あ……そ、そうですか……! エヘヘ!」


 リンは俺の腕に引っ付きながら、嬉しそうにコロッケを頬張った。そんなリンの姿を見た後に食べたコロッケの味は、不思議と美味しさが増していた。


 しばらく歩き続けていくと、リンの家に着いた。高校入学を機に一人暮らしを始めたと言っていたが、意外とちゃんとしたマンションを借りてるんだな。安い家賃のアパート住みだと思ってたから、少し驚いた。 


「お前、こんな良いマンション住みか。この感じからして、部屋広いだろ」


「良かったら、寄っていきますか?」


「いや、今日はやめとく。休みの時に遊びに来るよ」


「本当ですか! じゃあ、先輩の為に色々準備しておきますね!」


「せっかくだからタケシも―――」


「え、ヤダ……」


「……じゃあ、俺一人で来るよ」


「はい! 楽しみにしてます!」


 マンションに入っていくリンを見送った後、俺は自分の家に向かった。来た道を引き返して、あの肉屋からコロッケを何個か買おうとしたが、面倒なのでやめた。


「先輩!!」


 振り向くと、リンがマンションから出てきていた。


「あの……あ、明日も、その……」


「ああ。コロッケ食って帰ろうな」


「ッ!? はい!!」


 それだけ伝えたかったのか、リンは再びマンションに戻っていった。明日は買い食い用と別で、家で食べる用も買っていこう。


 明日も楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ