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DAIKIRAI

ホワイトデーということで、かなり甘めの短編をお届致します。

(バレンタインデーは、忙しくて何も書けなかったのですが……)

世界観的に、そんなイベントはないので(笑)

とにかく、まあ、みんな幸せで何より! みたいな感じです。

 ~カイとサクラの場合~


 一体何が原因だったのか。

 とにかく、その一言は放たれた。

「カイ様なんて大嫌いです!」

 言うなり、サクラは駆け出してどこかに行ってしまう。

「サクラ様!」

 焦ったように、後を追うのはマツリ。

 カイといえば。

 ほとんど唖然。

 そんな体で、立ち尽くしていた。

「カイ様?」

 騒ぎを聞きつけたらしいシキが、ひょっこりと部屋を覗きこんで、そっと声をかける。

 反応のない主君に肩を竦めて。

「カ、イ、さ、ま!」

 今度は、もっとはっきりと歯切れよく。

 カイははっとしたように、扉口に立つ側近に視点を合わせた。

「……シキ」

 側近は苦笑いを零しながら、部屋へと入ってきた。

「何、やらかしたんですか? あんなに怒ってるサクラ様を見たのは初めてですよ」

 カイだって初めて見た。

 しかも。

「大嫌い、とはな」

 苦々しいその一言を呟く。

 それを言われたのも初めてだ。

 どんな時も……過去に拒まれたあの時でさえ、そんな一言を言われたことはなかったのに。

「ああ……バッサリとやられるんですよね」

 妙なしたり顔でシキが言う。

 まったく、だ。

 この衝撃は、いったいなんだ?

 数えきれないほどの修羅場を潜って生きてきた身だろう。

 何故、その短い一言で、こんなに心臓が抉られるのか。

「言う本人達は、それがどれだけこっちに打撃を与えるか分かってないようですが……」

 ようやくのように落ち着いてきて、シキの言葉に含まれたそこに気が付く。

「本人達?」

 シキをちらりと見やれば。

「言われましたとも……何度と、ね」

 言った相手が誰だかは、聞くまでもない。

 カイにこの衝撃を与えるのがサクラならば、シキに与えられる人物の心当たりは一人だ。

「……で、どうするんだ?」

 何度も言われているならば、この対処法も知っているだろう。

「随分と素直にお尋ねになるじゃないですか」

 シキはからかいを含んで笑いながら

「もちろん、大嫌いを取り消してもらわないと」

 そして、声には真剣な響きが混じる。

「……じゃないと、こっちのここがもちません」

 そう言って、シキは自らの心臓あたりを親指で示した。


 サクラの部屋の前で、マツリが何かと声をかけている姿を見つけた。

 しばし、その様子を眺めていたが、どうやら部屋の主が出てくる気配はないようだ。

 カイはマツリを下がらせて、ノックもせずに扉を開けた。

「サクラ」

 呼びながら気配を探す。

 気配を探すのは得意だ。

 しかも、相手は敵ではなく、愛しい妃となれば。

 研ぎ澄ます神経も、刺々しさなく広がっていく。

 そして、見つけて、近づく。

 慎重に。

 今度は、うかうかと逃がしてしまわないように。

「そこは居心地が良いのか?」

 部屋の隅。

 そっとカーテンを引き、隠れている姿を見つけ出す。

 サクラは布の波に飲み込まれるようにして、膝を抱えて座り込んでいた。

「……ごめんなさい」

 先に言われてしまう。

 俯いて、小さな身体を更に縮めるようにして。

 その短く、だが鋭利な言葉に傷ついたのは、カイだけではない。

 それに気がつく。

「サクラ、そこは居心地が良いか?」

 もう一度問う。

 そうしながら、答えを待ちきれなくて、華奢な体をそこから拾い上げた。

 少しの重さも感じさせない、そのくせしっとりと腕に馴染む身体はカイを拒むことなく、しなやかな腕がすぐにも縋るように首に回ったことにほっと息をつく。

「すまなかった」

 俯いたままのこめかみに唇を触れながら囁けば、首を振るってサクラが応える。

「大嫌いなんて言ってごめんなさい」

 その先を待つ。

「大好き、です」

 トクン、と。

 シキの指差した、カイのその場所が穏やかな鼓動を刻み始める。

「好きです」

 ぎゅっと腕に力が入り、抱いていた身体が意志を持って寄せられる。

 初めて感じた痛みが、覚えのある甘い切なさに癒されて。

 尚更に、改めてその威力を思い知る。

 なるほど、だ。

 確かに、シキの言うとおり。

 これは、こちらの身がもたない。

「お前は俺が殺せるな」

 呟いたそれは本気だった。



 ~シキとホタルの場合~


 最近、また一段と美しくなったと評判の婚約者殿は、涙を零すまいときゅっと唇を噛み締めて、ドレスのスカートをギュッと握りしめた。

 あ、また言われるな。

 そう思ったと同時に、その一言が解けた唇から迸る。

「シキ様なんて、大嫌いです!」

 やっぱり、言われた。

 何度言われても、慣れることのできる筈もない一言が、グサリとシキの心臓に突き刺さる。

 大嫌い。

 この娘は、初めてその言葉をシキに投げつけた時のことを覚えているだろうか。

 まだ、想いが重なる前だ。

 シキは、ただただホタルが欲しくて。

 ホタルは、ただただシキから逃げたかった。

 そんな時にホタルから飛び出した小さな言葉。

 初めて耳にする言葉である筈もない。

 どんなに取り繕ったところで誠実とは言いかねただろう男に対して、似たような言葉は様々な女性から幾度となく発せられたことがあり、でも、それはほんの少しのかすり傷さえシキに負わせることはなかった。

 初めて、知った。

 言葉がどんな凶器になるのかを。

 ホタルが言ったその一言は、とてつもない威力で、シキを傷つけ、脅かし、暴走させた。

 でも、それは、その言葉に、もう一つの意味があったからだ。

 大嫌い。

 その意味とは裏腹に。

 そこには、ホタルがシキへの想いに気が付いた証が埋め込まれていた。

 気が付いても、認められなくて。

 認められないのに、止められなくて。

 抑えつけられた想いが生み出した、あまりにもたくさんの意味を含んだそれは一言だったのだと思う。

 だから、あれほどにその一言は、シキを貫き痛めつけた。

 あれから、シキが何かをしでかすたびに、何度とホタルは言う。

 想いが通じ合った今でも、いや、想いが通じ合ったからこそ、その言葉は様々な意味を持っていて。

 だから、なお、慣れることのできない、胸を突き刺す痛みをもたらす。

「……大嫌い!」

 再び、ぐっさり。

 己の胸が、言葉の剣に抉られる感触。

 だが、シキは、これもまた、知っている。

 この剣は、シキだけでなく、振るうホタル自身も傷付けている、と。

 一言、言うたびに、ホタル自身も脅かされていると。

 だから。

 あの時と同じように逃げようとする身体を、いとも容易く捕まえて抱き寄せた。

 背中から包むように抱いて。

「俺は君が好きだよ」

 囁いた。

 どんな遠くの声も聞くという耳に、ことさら甘く注ぎ込む。

 自ら振るう言葉の剣で、自ら傷ついているであろうホタルが少しでも癒されるように。

 ハタハタとホタルの瞳から、溢れ出た滴が零れ落ちる。

「シキ様なんて大嫌い」

 ホタルは、まだ言い募る。

 だが、そこからは剣呑さが消えつつあり、指先が己のドレスを離して、シキの衣をぎゅっと掴む。

 その一言に含まれるもう一つの意味が、鮮明になりつつある。

 もう少しだ。

「そう? 困ったな……俺はこんなに君を愛しているのに」

 もう少しで、剣は鞘に納まるだろう。

「……どんなに君が俺を嫌いでもね」

 ホタルがシキの腕の中、顔を上げた。

 濡れた瞳には、剣を振るってしまったことの深い後悔が見て取れた。

 言葉が時にどんなに無意味であるかを知っている遠耳の娘は、それでも言葉がどれほどの威力を持っているのかもまた、十分すぎるほどに知っているから。

 だから、感情に任せて口にした言葉を悔やむ心も人一倍。

 シキを見上げるホタルの唇が、何か言いたげに揺れる。

「……大嫌い……」

 やがて、どう聞いたところで、そんな意味を含んでいないそれが綴られた。

 素直になりきれない強情な婚約者につい苦笑いを零すと、ホタルの顔が不意に近付きシキの唇を掠める感触。

 なるほど。

 ホタルは、言葉よりも、もっと伝えられる方法を選択したらしい。

 拙いそれに、あっさりと懐柔されて、シキはホタルに顔を寄せた。

「愛してるよ」

 口付ける。

 ホタルは、もちろん瞳を伏せてそれを受け入れた。

「ホタル、君が好きだよ」

 何度も、囁く。

 ホタルは何も言わずに、繰り返すキスを受け入れて。

 やがて、シキの胸元に小さくなって潜り込む。

「……愛してます」

 そして、ようやく告げてくれる。

 そうだ。

 やはり同じ意味を含んでいたとしても、この一言がいい。

「もう一回言って」

 小さな恋人に願えば、微笑むホタルが、再び自ら唇を触れてくる。

「愛してます」

 触れる寸前に。

 そして、今度はもっと。

 触れるだけではない。

 シキに深く突き刺さった剣が消え失せて、甘い命が注ぎ込まれる。 



 ~イトとアオイの場合~


 物好きにも、イトを好きだと言うこの娘は、どちらかと言えば喜怒哀楽の表現が上手ではない。

 その姉の言によれば、天使の如くと言われる容姿を持つこの娘は、幼い頃から己の表情一つにあたふたとする周りを見ているうちに、常に謎めいた微笑みを浮かべるばかりになっていたのだという。

 その天使と呼ばれていた娘……アオイが、いつもは恐ろしく澄んだ緑の瞳を、涙にけぶらせてイトをじっと見つめている。

 何が気に入らなかったのか知れないが、とにかくアオイはいたく傷つき、泣きたいほどに感情を高ぶらせているらしい。

 困った、と思う。

 この娘を愛している。

 傷つけたくはない、とも。

 何かが、この娘を涙させるいうならば、それを排除してやりたかった。

 そうは思っても、だが、イトにはどうすれば良いのか、分からない。

 初めて、だから。

 己の領域に、これほどに人を踏み込ませたのは。

 切り捨て、葬ることが生業の己にとって、護り慈しむことはあまりにも難しい。

「……イトなんて大嫌い」

 やがて、ポツリとアオイが呟いた。

 そして、堪え切れないように涙が零れる。

 それを、拭ってやれば良いのか……血に塗れた手で?

 小刻みに震える身体を抱き寄せれば良いのか……嫌いと言われたのに?

 考えて、結局何もできずに、イトはアオイに背を向けた。

 だが、すぐに衣を引っ張られて、歩みは止まる。

「……おい」

 トンと背中にアオイが当たる。

 本人は知らないだろう。

 こんな簡単にイトの背後を取ることができるのは、アオイだけだ。

「どこに行くの?」

 どこだろう。

 そんなことは、決まっていない。

 ただ。

「俺が嫌いなんだろう?」

 そう言われてしまえば、イトが成すべきことは一つしかない。

「嫌い」

 即答しながら、しかし、裏腹にアオイの腕が、イトの胸に回る。

 細い腕が、力を込めて抱きついてくる。

「嫌いな男に抱きついてどうするんだ?」

 アオイの腕は緩まない。

 イトの武骨な手のひらとは比べようもない、白く細い指先がギュッと衣を握る。

 今は穢れていない筈の衣から血が滲み出て、アオイの手のひらを染める幻覚を見る。

 もう幾度と抱いた娘は、だが、イトが側にいなければ相変わらず天使のように穢れなく美しいのに。

 こうしてイトに触れるたびに穢れていく気がする。

 手離すべきかもしれないという思いは、もしかしたら、どの想いよりも強く、イトの中に常にあるものかもしれない。

「あんたに嫌われたら、俺はどうすれば良いんだった?」

 イトはアオイの手のひらを衣から外した。

「あんたがいらないと言えば」

 今ならば、まだ、手離せるか。

 振り返らずに言えば、握ったアオイの手首がビクンと震えた。

「俺は消える。そういう約束だったな」

 イトはアオイを離した。

 少しでもアオイの姿を見たら、約束を守れない気がした。

 だから、娘を一目と見ることなく、歩き出そうと一歩踏み出す。

「っ行かないで!」

 小さな声が、しかし、激しくそう願った。

 いつにない激しさに、思わず、振り返った。 

「イトなんて、嫌い」

 ポロポロと、瞳から滴が零れ落ちる。

 美しい娘は、涙まで穢れなく輝くのか。

 アオイはフワフワと蜃気楼のような足取りで、イトに近付き

「好きなの」

 今度は真正面から、イトの胸に身を寄せた。

「イトが好き」

 背伸びをするように腕が伸び、イトの首へと回る。

 細腕に、そんなに力がある筈もないのに、イトは身を屈めざるを得ない。

「お願い」

 アオイの唇が、イトの目元を走る傷に触れる。 

「行かないで」

 本当は、このまま出て行った方が、この娘のためかもしれない。

 忌まわしい隻眼の悪魔に魅入られた天使。

 今なら、手離せる。

 イトが姿を消せば、アオイは天使に戻るだろうか。

「イト……貴方が好き」

 ぎゅっと強く縋りつかれ、イトの腕は、結局アオイを抱いた。

 アオイがほっと息をつき、更に求めて身を寄せてくる。

「……私、天使になんて戻りたくない」

 イトの心を見透かすように。

「貴方の側にいたいの」

 この娘は、いつから、こんな聡くなったのか。

 ただただ、微笑むだけだったのに。

「悪かっ……」

 そして。

 口にしかけた言葉は、その色付いた唇に奪われる。

 拒む理由もなく口付けを深めて追いつめて。

 だが、追いつめられたのはイトの方で、抑えきれず柔らかな肢体を抱き上げて寝台へと運び込む。

「イトは……私を置いて出て行ってしまえるのね」

 素直に身を委ねながらも、アオイが囁いた。

 感情を押し殺しているようにも思える静かな声だったが、そこに哀しいという響きを聞き取る。

「……ここを出たら……屍になるだけだ」 

 だから、正直に。

 天使を手に入れた男が、天使を手放した時の末路を告げる。

 イトの腕の中、アオイは天使ではなく、女の微笑みを浮かべた。



 ~タキとアイリの場合?~


 スタートンのお屋敷の一角に、今日も元気にアイリの声が響く。

 だが、今日の一言は不穏に満ちていた。

「タキなんか、大嫌い!」

 それを聞いた家中の者達がぎょっとする中、アイリが長いドレスの裾をものともせずに駆け抜けていく。

「待ちなさい! アイリ!」

 少し遅れて、タキがそれを追う。

 しかし、俊足と……特に逃げ足は三国一と誉れ高いアイリはさっそうと屋敷内を抜け、タキがラジル邸に向かうために用意されていた馬にまたがった。

「タキなんて、大嫌い!」

 そして、もう一度高々と言い放つと、鮮やかな手綱捌きで、馬を走らせた。


 目的の場所に到着するなり、様々な者達がかしこまって挨拶しようとするのを、適当にやり過ごし一直線にその部屋をノックする。

「サクラ様! いらっしゃいますか!?」

 バン!と勢いよく扉を開き、アイリは目的の人物を発見した。

「アイリ様!? 珍しいですね…どうなさったの?」

 小さくて可愛らしいものに目がないアイリの不機嫌は、サクラを見て急浮上だ。

 しかも、その隣には。

「ホタルもいるの!? ちょうど良いわ!」

 常々サクラと並べて家に置きたい、と願っているホタルまでいる。

 これはかなりの好都合。

 アイリはサクラとホタルの腕に、自らの腕を絡めると

「今日は3人でここで眠るから!」

 閉じられた扉に向かって叫んだ。

「はい?」

 ホタルはぎょっとして、少しばかり上にあるアイリを凝視する。

 アイリは、にっこりとホタルに微笑んだ。

「カイ様のベッド、大きいんでしょ? 大丈夫、私達3人ぐらい楽に横になれるわ、ね?」

 最後の「ね?」はサクラに。

 サクラは、目を瞬かせ

「それは……大丈夫だと思います」

 素直なその返事が、アイリの胸をときめかせる。

「今晩はベッドに並んで夜通しお話ししましょう!」

 そして、離さないとばかりに両腕に、少女のように華奢な二人を抱き抱えた。

「それは楽しそうですね」

 サクラは、あっさりと言い、アイリとホタルに二コリと笑う。

「でしょ?」

 部屋に入ってきた時の不機嫌などどこに行ったのかという上機嫌のアイリだが、ボソリとホタルが水を差す。

「それは……カイ様がお許しになりませんよ、きっと」

 アイリはふんと鼻を鳴らした。

 その雄々しい様に、早々にホタルも諦める。

「シキ様は良いの?」 

 こっそりと聞いてくるサクラに。

「アイリ様に刃向えるとは思えません」

 正直な思いを述べる。

 軍神を鼻であしらう最強の女神様に、どうして一介の騎士が太刀打ちできるだろうか。

 サクラとホタルは顔を見合わせ、絶対に離さないという力で二人を確保するアイリに声を揃えて尋ねた。

「タキ様と喧嘩ですか?」

 アイリは勢いよく、扉に向かって叫んだ。

「そう! タキなんて大嫌い!」


 扉の外には、3人の男が雁首を揃えながら、成す術もなく立ち尽くす。

「タキ」

 カイは大きくため息をついた。

「はい」

 なんとか平静を装い、得意の笑顔を表面に貼り着かせて応えるも、漂う冷気に背筋が凍る。

 主君は、つい先ほど城から戻ったばかりで、正装を寛がせてさえいない。

 漆黒の軍神然とした主は見慣れている筈。

 だが、思いがけず、人々がひれ伏すその理由を再認識してしまった。

「俺は、今晩一人寝を強いられるのか?」

 色彩の違う瞳が眇められる。

 たまには、一人でゆっくりお休みになるのもよろしいのでは……とは、間違っても言える雰囲気ではない。

「おい、なんとかしろよ!」

 カイの迫力に固まるタキのすねを、その傍らにいたシキが蹴った。

 双子の弟は、不機嫌さで言えば、カイ以上。

 さもありなん。

「俺はさっき戻ったところなんだ。1週間ぶりだぞ、1週間!」

 知っているとも。

 結婚式を挙げたばかりの弟に、無情にも1週間の激務を課したのは、他ならぬタキ自身だ。

 だから、気を利かせて、ホタルを呼び寄せておいたのに。

 せっかく手に入れた新妻と、一刻でも早く会わせてやろう、と。

「まさか、一人で屋敷に帰らせて……一人で俺を寝かせるつもりか?」

 見事に裏目に出たらしい。

 タキは大きな、大きなため息をついた。

 目の前には、キリングシークの名だたる二人に立ちはだかれ。

 後ろでは、愛する妻に、人質を取られた挙句に、籠城されている。

 なんてことだろう。

 己は他国にも名の知れた策士ではなかったか?

 なのに、この状態を打破する術はたった一つ。

 どんな計略も。

 いかなる謀も。

 もはや思い浮かびはしない。

「……アイリ、私が悪かった。出ておいで」

 タキは扉に向かって、力のない声で詫びを口にした。


 そんな訳で、いつだって勝つのは女性陣なのです。

実は、随分前から書きかけていたものです。『騎士の想い 侍女の願い』で、二人がある程度納まってから……と、思っていまして、このタイミングとなりました。

軽く楽しんで頂けたなら幸甚です。

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