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第6話 学園強制捜査《タイタンズ・サーチ》

 教室に到着すると、アマデルは当然のように俺の隣の席に座った。


「おい、そこはお前の席じゃないだろ……勝手なことして目立つんじゃない」


 小声で忠告するが、アマデルはどこ吹く風。


 すると、その席の"本来の持ち主"が登校してきた。


「ちょ、君、そこは僕の席なんだけど……?」


 ほら言わんこっちゃない。


 アマデルは一瞬だけ瞳を黄金色に輝かせると、穏やかで優雅な口調で言った。


「ここは今から私の席になりましたわ。貴方は責任者に別の席を用意してもらいなさい」


 その瞬間、相手の男子生徒の表情が一変した。


「……かしこまりました」


 ペコリとお辞儀をして、無表情のまま教室を出て行った。


 こいつ、いま完全に人間の精神にスキルで干渉してたよな……!


「おい……アマデル!精霊従属(エンチャント)を使っただろ。勝手なことすんなよぉ……」


 間違いない、アマデルが使ったのは人間を意のままに操る「精霊従属エンチャント」、つまり俺が妄想の中で設定した精霊アマデルのスキルだ。


 てことは、やっぱりコイツ、俺の妄想の中の"精霊アマデルそのもの"なのか?やっぱ本物ってこと!?


 どういう理屈で実在してるんだ?これってヤバくないか?


 俺の黒歴史な設定の数々が、高校生活の中で現実になり始めているってことになる。


 つまり……記憶から完全消去(フォーマット)したい恥ずかしいのまで。


 その時、俺の不安をぶった切るように、すぐそばから聞き覚えのある声が響いた。


「ねえシン! だれなの、この子?」


 視線を向けると、そこには霧崎ユリが立っていた。

 腕を組み、じろりとアマデルを睨んでいる。


「あら? この方は……?」


 アマデルが首をかしげると、ユリは少しムッとした顔で俺の方を向く。


「シン、説明して」


「……説明もなにも、お前には関係ないだろ」


「ある! だって、”妄想ぼっち”のシンが、可愛い女の子と一緒に登校するなんて、ありえないことなんだから!」


「おま……っていうかうるせぇな」


 俺だって望んでこんな状況になってるわけじゃねぇよ。


「わたくしは精霊アマデル。"黒翼の使徒シン”の従者です」


 アマデルが堂々と宣言する。


「はあ?"黒翼の使徒"!?」


 ユリがぽかんとした顔をする。

 ……いや、まぁ、この反応は当然か。


「……もしかして、この子も妄想世界の住人?っていうかあなたの同類なの?」


「いや、まあ……たぶん」

「たぶんってなに?」

「俺が聞きたいんだよ!」


 もう完全に会話がカオスになっている。


 そして、俺はここで悟った。


 学園生活であえて"孤高ぼっち"を貫いてきた俺が、アマデルを連れての登場で一気に注目の的になっていることに。


 これは——ヤバい。正直に言うと、俺は中学生のころから同級生では霧崎ユリ以外の生徒と会話した記憶がない。


 つまり、ユリ以外とまともにコミュニケーションしたことがない(ていうか出来ない)

 この状況について説明を求められても、うまく受け答えする自信がないというか、たぶんキョドる。


 つまり”孤高ぼっち”状態こそ、俺のアイデンティティを保つ唯一のシールドなのだ。


 俺は一つ深呼吸をしてから、"いつものポーズ"で腕を組み、目を閉じた。


「……フッ。俺は選ばれし者……凡俗とは交われぬ人間だ」


「なっ……!? 何それ!?」


 いつものようにユリが困惑しているが、知ったことではない。

 そこへアマデルが追い討ちをかける。


「そう、黒翼の使徒シンは選ばれし者であり、この世界を救う勇者なのです」


(ていうか、おまえは黙っててくれ!)


 するとユリは、やれやれと呆れた表情を見せ、自分の席へと戻った。


 ──そう、俺は俺の道を行く(誰にも話しかけられたくないから)


 この高校生活での"静かな日常"を守るために!俺は”孤高ぼっち”を押し通す。



 その時、どこからか、妙な気配を感じ取った。


「……なんか、嫌な視線を感じる」


 ふとした瞬間、ゾワッと背筋が冷たくなる感覚が襲ってきた。まるで、何者かにじっと観察されているような……不気味な違和感。


 俺は何気なく窓の外を見る。


  すると、校庭の向こうに、黒いフードをかぶった人物がじっとこちらを見ていた。


 その場に立ち尽くし、わずかに首を傾げながら……まるで俺の内側を覗き込むかのようだ。


(……なんだあいつ。なんで俺を見てる?)


 その瞬間、俺の視力が拡張しフードの男の表情まで見てとれた。


 心なしか、フードの下で微笑んでいるようにも見える。


 その瞬間、まるでノイズのような「ブツッ……」という音が脳内に響き、影はかき消えるように消えた。


「……っ!?」


 ただの見間違い? いや、でも……今のは……確実に俺を見ていた。


 いや待て、もしかして——俺の妄想が生み出したヤバいやつ!?……それとも、俺が拾ったバイザーを探しにきた異星人か?そもそも奴らのドローンを破壊しちゃったわけだからな。


「シン…… わたくしも感じました……今のは、"侵食者ディヴァウアー"の気配に似ていました」


 その言葉と同時に、アマデルの光の羽がわずかに震える。


「……"侵食者ディヴァウアー"だと?」


「ええ。闇の領域から放たれた監視者。奴らの眼に映った以上、あなたの存在は……いずれ察知されるでしょう」


 アマデルの瞳が、ほんの一瞬、不安げに揺らいだ。


 俺はゴクリと喉を鳴らしながら、改めて思った。


 もう……なんか、目立たずに過ごすなんて無理な気がする。




 その後、俺とアマデルは真面目に物理の授業を受けた。


(……別に話しかける相手がいないから授業に集中してるんじゃない。勉強は好きなんだ)


 俺はそんな言い訳を自分にしながら、ノートに数式を書き写していた。


 アマデルも人間の授業に興味があるのか、教科書も開かず(そもそも持ってないんだが)じっと話を聞いている。


 まあ、大人しくしてくれていればこっちとしては助かる。



 教室の黒板には、「E=mc²」 の数式が白く残っている。


 教師はチョークを置き、相対性理論についての説明を終えた。


 そのとき、前の席から質問が飛ぶ。


「先生、相対性理論が正しいなら、異星人が地球に来たことって説明つかなくないですか?」


(お、いい質問だ)


 教室がざわつく。


 たしかに、異星人と言われる支配者オーバーマインドは突然地球にやってきた。

 しかも、超常的な科学力をもって地球を制圧したわけだが……

 現代物理学の常識に当てはめると、彼らがここに来られたこと自体が"あり得ない"。


 教師はゆっくりと板書を始めた。


「例えば、地球に似た環境の惑星としてケプラー452bがある。地球から約1400光年の距離だ。つまり光速で移動しても、片道1400年かかる」


(1400年……そんな時間がかかるなら、来た頃にはもう文明が滅んでるだろ)


 生徒たちが困惑した表情を浮かべるのも当然だ。


「じゃあ、もっと近い星なら?」


 別の生徒が手を挙げる。


「プロキシマ・ケンタウリbなら4.2光年。光速なら4年で来れるんじゃ?」


「たしかに、そこなら距離的には現実的だな」


 教師は黒板に「4.2光年」と書き込み、再びチョークを置いた。


「だが、ここで問題がある。光速に近づくほど、必要なエネルギーは無限に増大する。今の物理学では、人間を乗せた宇宙船を光速で飛ばすのは不可能なんだ」


 教室が静まり返る。


(じゃあ異星人は、どうやってこの星にやってきたんだ?)


 すると、最前列の席から椅子を引く音がした。

 俺たちの学校の生徒会長であり、帝大物理学志望の超天才学生 白石アキラ が、静かに立ち上がる。


「先生、私からも質問を」


 教師は彼の目を見つめ、うなずいた。


「……いいぞ、白石」


 白石は一呼吸置いて、ゆっくりと口を開く。


「私はずっと考えていました。光速の壁は、本当に超えられないのでしょうか?」


 生徒たちは一斉に白石を見つめる。


(また、こいつの超科学論が始まるぞ……けっこう面白いんだよな)


 白石の頭の中は、一般的な受験物理の枠を完全に超えている。

 天才は天才なりに、普通のやつとは違うことを考えているらしい。


「例えば……もしこの世界が、ゲームやVRのようにデータの集合体だったとしたら?物理法則は“プログラム”であり、意識がそのコードを書き換えられるとしたら?」


 教室がざわめく。白石は続ける。


「量子もつれは、距離に関係なく即時に影響を与えます。もし、宇宙そのものが“情報の集合プール(イマジナリ・クラウド)”だとしたら、物理的な移動をせずに、異星人はここに“存在する”ことを選べるのではないですか?」


 俺は思わずペンを止めた。


(……待て、それってつまり、異星人はここに移動やワープしたわけじゃなくて、情報として“そこにいる”ってことか?)


 教師が腕を組む。


「白石が言いたいのは……つまり、異星人は、空間を移動したのではなく、量子的な方法で地球と接続したと?しかしそれを証明するには……」


 すこし考えたあと教師は続ける。 


「量子もつれは、たしかに距離を感じさせない現象だけれど、実際には“情報”が超光速で伝わるわけじゃない。だが……もし宇宙そのものが情報でできていて、その“基盤”に直接アクセスできる存在がいるなら、物理的な距離を無視できるという仮説も立てられる」


 それを聞いた白石は、まるで確信を得たかのように、静かに言った。


「先生。彼らがここに“いる”という事実自体が、その仮説を支持する根拠にはなりませんか?もし、四次元──ミンコフスキー空間の本質が、“思考”や“情報”で成り立っているとしたら……我々の物理学は根本から覆る、いや、新しい段階に進化するかもしれません」


 教師はゆっくりと頷き、最後にこう答えた。


「……その可能性は……確かに、否定できないな」


 その時、俺の背中に再び悪寒のような、嫌な予感が走る。


 アマデルも何かに気がついたようにスッと立ち上がり、窓の方へと歩いていく。俺もアマデルに続くように席を立つ。


(——なんだこの感じ、何か危険が迫ってるのか!?)



 窓の外を見ると。校庭に、異様な雰囲気を醸し出す集団が見えた。


 黒い繋ぎ服に紅ベレー帽を被った男たちが、銀色の盾と警棒を持って整列している。


(……あれは、支配憲兵隊(タイタンズ)!?)


 すると、先頭に立つ大柄の男が持つ拡声器が、ハウリングのような不快な音を響かせる。


「我々は支配憲兵隊タイタンズだ!先週、支配者オーバー・マインドのドローンがある者に破壊された。犯人は仮面で顔を隠していたが、この学校の制服を着用していたことが判明している!」


 教室内は、ざわめきが広がり始めていた。


「該当者は今すぐここに出頭しろ!待っても 出てこなければ、我々は強制捜査を行う!」


 生徒たちが一斉に息を呑む。


「なんで支配憲兵隊(タイタンズ)が学校に……?」

「異星人に媚び売って人間を監視するクソどもが……」

「あの盾、異星人からの支給品で物理攻撃が効かないらしいぜ」

「……でも、うちの生徒にドローンを壊せるやつなんているわけないよな?」


 ……いや、いるんだよ……ここに。


 そう俺が、ドローンをぶっ壊した張本人だ。

 心臓がドクンと跳ねる。


(落ち着け……冷静になれ、俺……!)


 俺は必死に自分に言い聞かせる。


 だが、事態は刻一刻と動いていた。


 白石が教師と静かに目を合わせると、無言のまま教室を飛び出した。


(……おいおい、生徒会長が対応するのか?ややこしくならなきゃいいけどな)


 俺はこのまま、じっとしているべきか?


 それとも……


 “漆黒の炎で奴らを潰す”か!?


 ……いやいや、相手は裏切り者とはいえ、人間だぞ。


(でも、このままじゃ強制捜査……いずれ俺がバレるのも時間の問題だ)


 俺は焦燥感を抑えながら、窓の外を睨んだ。



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