第3話 覚醒の脅威《オーバーマインド・アラート》
支配者管制室──
静寂と秩序に包まれた広大な空間に、異例の緊張が走っていた。
中央に浮かぶ巨大な球体モニターには、数秒前、地球の公園上空で撮影された映像が、繰り返し流されている。
そこに映るのは、信じられない光景だった。
漆黒の仮面をつけた人間が、右手をかざす。
その掌から放たれた灼熱の火球が、空飛ぶ監視ドローンに直撃。ドローンは防御シールドをものともせず、一瞬で炎の塊と化し、爆発四散する──
「信じられん……人間に我々のドローンが破壊されたのか？！」
異星人たちの思考ネットワークに、ざわめきが広がる。ざわめきはやがて、混乱の波紋となって管制室全体を揺るがした。
彼らは長きにわたり地球を支配し、人類のあらゆる反抗手段を無力化してきた。
それを可能にしているのが、超思念科学だ。
人類の知る科学をはるかに凌駕する上位概念。超思念科学によって、彼らはあらゆる物理攻撃や防御を無効化し、圧倒的な優位を保ってきた。
当然、監視ドローンも超思念科学が生み出すシールドで防護されており、人類の技術では破壊不可能だったはずだ。
そのはずが──まさか、何者かが、彼らの想定外の方法でドローンを破壊した。
司令官 ゼル＝アグノス は静かに立ち上がり、冷徹なまなざしでモニターを見つめる。
「報告を」
技術顧問 マルキオス が、淡々とデータを整理しながら報告を始めた。
「この攻撃のエネルギー波形を解析した結果──超思念科学を使用した場合の痕跡と一致しました」
管制室の空気が一気に張り詰める。
「馬鹿な！」
副官 カリスト＝ヴェルム が、思わず語気を荒げる。
「人間が超思念科学を扱える、使うはずがない！これはドローンの誤作動による自爆では？！」
ゼル＝アグノスは、細長い指を組みながら冷静に言葉を紡ぐ。
「いや、誤作動ではない。確かに映像に映る人間が、物理兵器ではなく、我々と同じ思念エネルギーを操っている」
再び、映像がスローモーションで流れる。
何度見ても、そこに映るのは黒い仮面をつけた人間による、圧倒的なドローン破壊行為。
その光景は、まさに 支配者の戦士が使う「思念具現化」技術──超思念科学──そのものだった。
マルキオスがデータを操作し、新たな映像を表示する。
「実は……指揮官用のニューロ・バイザーが一台紛失しているとの報告が上がっています」
カリスト＝ヴェルムが驚愕する。
「何？！なぜ早く報告しなかったのだ！」
ゼル＝アグノスはテーブルを叩き、目を細める。
「……そのバイザーが、この謎の人間の手に渡った可能性があると？」
マルキオスは静かに頷く。
「その可能性はありますが……そもそもありえないのです」
ゼル＝アグノスはマルキオスに視線を向ける。
「何がありえないのだ？」
「 超思念科学 による思考の具現化には、長年の反復訓練が必要ですし、そもそも 次元覚醒 を知らない人類が扱える技術ではありません」
マルキオスは淡々と説明を続ける。
「思念兵器は単なる装置ではなく、使用者の脳波測定レベルに応じた機能制限がかかります。つまり人間が装備し奇跡的に発動が出来たとて、短時間でこれほどの破壊思考を出せるわけありません」
カリスト＝ヴェルムが追随する。
「つまり、あの仮面の男が我々のバイザーを装備したところで、 超思念科学 を使いこなせることなど、絶対にあり得ないと言うのだな？」
「そうです」
しかし、ゼル＝アグノスは映像を再生しながら、低く呟いた。
「では、あれは何なのだ？この仮面の者の正体は……」
マルキオスも、もはや確信を持って否定できなかった。彼らの揺るぎない常識が、今、目の前の映像によって崩されようとしていた。
ゼル＝アグノスはゆっくりと立ち上がる。
その背後で、異星人たちがざわめきながら新たなデータを処理していた。
彼は、映像に映る仮面の男を指差し、静かに命令を下す。
「この人間を最優先で追跡し、捕獲しろ。脳を開いて調査する必要がある」
カリスト＝ヴェルムが頷き、──対人間戦略部隊──への指令を発信する。
「緊急警戒レベル引き上げ。新たな脅威、識別不能。コードネームはイマジナリー・ワン」
ゼル＝アグノスは最後に、一言付け加えた。
「もしあの人間が、本当に思念兵器を扱えるならば……これは、我々の支配そのものを揺るがす可能性がある」
管制室には、重く、底知れない緊張が走った。
こうして、公園で偶然力を手にした妄想ぼっちと、絶対的支配を誇る異星人との、新たな戦いが静かに始まろうとしていた──
この３話は大きく改訂してないですが・・・
シンのバイザーに搭載されているAIと彼らのオーバーマインドとの関係性が
のちのちにアレする伏線パートになります
たぶんね！
