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第15話 神話と現実の交差点

 

 突如、目の前に現れた——「あの人」


 (……佐藤カイ)


 俺は一瞬、自分の耳を疑った。

 なぜなら——この名前は、俺が知っている"ラノベの主人公"と同じ名前だったからだ。


 年齢は……見た目では20代前半くらいだろうか?

 黒髪に黒い瞳、細身で端整な顔立ちだが、どこか柔らかい雰囲気を纏っている。

 黒のロングコートを纏い、武器のようなものは持っていない。


 (いや、でもそんなはずない……まさか……)


 俺の思考が混乱している間に、カイは続ける。



「ようこそ、ナイトフォールへ。——"選ばれし者"」



 彼は穏やかに微笑むと、ゆっくりと俺に歩み寄った。

 その物腰はどこまでも柔らかく、まったく威圧感はない。

 ただ、俺の直感が、彼に秘められた強力な何かを察知している。



「俺は……夢を見ているのか」



「君が混乱するのは仕方がない。でもこれは現実リアルだ……神崎シン」



 その時、白石が口を開く。


「私は白石アキラです。妄想英雄イマジナリー・ヒーローのサポートをしています」


 するとカイは白石を見つめて微笑んだ。


「キミのことは、ガイから聞いているよ。『超思考科学』……とても面白い持論を持っているってね」


 その言葉に、白石はニコリと頷くとカイに軽く会釈をした。


 俺はこの状況を僅かに警戒しながらも、なんとか平静を装う。



「……ともかく、俺をここに呼んだ理由を聞かせて欲しい」


「もちろん、君に知ってもらうためさ。この世界で今何が起きているのか、"ナイトフォール"が何を目的にしているのか——」



 カイは一歩前に進み、俺の肩に軽く手を置いた。


「——そして、"キミ自身の秘密"についても、ね」


「……俺の……秘密?」


 心臓がドクンと高鳴る。


 俺は、自分が"妄想を現実にする力"を持っていることは理解していた。

 だが、その原理がどうなっているのか、未だに分かっていない。


 カイは、まるで俺の思考を見透かしたかのように微笑む。


「キミの力は、"偶然"手に入れたものじゃない」


「——どういうことだ?」


 するとカイは両手軽く開いた。


 その動きに呼応したかのようにダンジョンの壁面がうねり"古代文字"のような光の記述が浮かび上がった。


「ダンジョンには意識がある。そしてそれらの深淵は、多次元でつながっているんだよ」


「多次元でつながってる……?」


 すると白石がボソリと呟く。


「つまりマルチバース……ですか?」


「そう。支配者オーバーマインドは”ダンジョンの意識”を封印しようとした——だが、完全ではなかった」


 カイはゆっくりと視線を上げ、俺をまっすぐに見据えた。



「なぜなら、ボクが気づいてしまったからね。だからこの場所だけは閉じられず、いまこうして君たちに出会えている」



 ——俺はいま、この場所のすべてが妄想なんじゃないかと思い始めていた。


 目の前の“メイ”も、“カイ”も、地下の聖域も、全部。


 ダンジョンには意識があるって、たしかあのラノベの中でもそういう表現があった。


 具体的に解説はなかったけど、たしかこんな風に壁が動いてたと思う。


 俺はこの世界を、いや妄想の中でだけ英雄を演てるだけで——

 もしかしたら実態はベッドの上で、ずっと夢を見てるだけなんじゃないか……?



 でもあれはフィクション、つまり小説だ。この状況は、どう考えてもおかしい。

 考えるほど——現実感がどんどん薄れていく。


 この場に立っているはずなのに、どこか遠くから自分を見下ろしているような気がした。



 (やっぱり夢の中なのか……? いや、現実……?どうすれば目覚める?確かめられるんだ!?)



 心の中で、何度も問い返す。



 その時、カイが俺の方をまっすぐ見て、静かに語りかけてきた。



「“我思う、故に我あり”——この言葉、知ってるかい?」



 その一言で、時間が止まったような気がした。



「……なんか、聞いたことあるけど」



 横から、白石がすかさず知識フォローを入れる。



「デカルトですね。人間は全てを疑えるが、“疑っている自分”の存在は否定できない。だから、思考する自分こそが現実にいる証明だっていう哲学です」



 カイは穏やかに頷き、さらに続けた。



「君はいま、ずっと自分自身に問い続けてる。でもそれが、君が“君”であり、この世界が現実であるという証なんだよ」



 ——よく分からない。でも、もし全部が俺の妄想だったら、俺が知らないはずの哲学で、カイが語りかけてくるのは矛盾してる。


 たしかに、俺は“考えてる”。“疑ってる”。 


 それが、“現実に生きてる”ってことなんだろうか——



 するとカイは、静かに指先で虚空の光をなぞった。


「……支配者オーバーマインドは、確かに“異星人”だ。でも、厳密に言えば——“人間の祖先”でもある」



 (……は?)



 唐突な真実に、俺は頭がついていかない。



 カイの声は、どこか哀しみすら帯びていた。



「彼らは、宇宙の“思念エネルギー”を完全に理解し、“思考”そのものを物理現象として顕現させる術を持っている。奇跡——古代の人々は、そう呼んだ」



 白石が目を見開く。



「……まさか……神話や伝説に出てくる“神々”が……?」



 カイは静かに頷いた。



「うん。彼らは、突然この星に現れたんじゃない。——むしろ、遥か昔に“人間”を生み出した側なんだ」



 俺は、思わず息を呑んだ。



 (そんなバカな……だって、それじゃ——)



「そう。人類は太古から、彼らのことを“神”として知っていた」


 カイの目が、どこまでも静かに俺たちを見据える。



「この星の文明の“起源”には、必ず彼らの影がある。宗教、伝説、神話、すべてにその痕跡が刻まれている」



 白石が震える声で呟く。



「じゃあ、人間は……ずっと“支配者の箱庭”の中で生かされてきたって言うんですか……?」



 カイはゆっくりと頷く。カイの声は静かだった。



 焦っているのか、白石は早口でカイに尋ねる。いつも冷静な彼にしては珍しい。


支配者オーバーマインドの目的はなんなんですか?なぜ今姿を現し、私たちを管理下に置こうとしているんです?」



「……彼らが人類を創った理由は二つある。

 一つは“労働力”として。もう一つは——“エネルギー源”として、だ」


支配者かれらが、人類を創った……?」


 俺も白石も、返す言葉を失った。



 カイは淡々と続ける。



「人間は、彼らがこの星で出会った“猿人”に、自分たちの遺伝子と、さまざまな生物の遺伝子を組み込んで作られた。

 彼らの知性、アリの勤勉さ、狼の社会性……あらゆる生物の特性を一つにまとめてね」



 白石が、ぎゅっと拳を握る。



「……人間が、遺伝子操作で作られた、支配者オーバーマインドのコピーでキメラだと?」



 カイが小さく頷く。



「そう。だから人間は彼らと姿形が似ている。でもね“管理された進化”しか許されなかった」


「しかし、私たち人間には万物の法則を知る科学があります!」


「……科学技術も彼らから与えられた知識だよ。進歩しているようには見えるけど、実は“物理法則”という“リミッター付き”の知識だ」


 しばらく、沈黙が落ちた。


 白石は、呆然とつぶやく。


「科学は……人間が研鑽し積み上げてきたものじゃなかったのか……?

 私は、それこそが人間の自由意志だと……そう信じてたのに」


 そう呟く白石は、バッテリー切れのロボットのようにガクリと膝を落とした。

 まるで「自分の世界が崩れた」ような呆然とした表情を浮かべ、地面を見つめて黙りこんだ。



 (白石……おまえでもそんな顔をするんだな)



 カイは、優しい目で俺たちを見つめていた。



「……ボクはね、神託ダンジョンという場所で12000年という途方もない修練を積んだ。そこで神とは何か、この世界を形作る“思念エネルギー”とは何かを、理解した」



 彼の声には、遠い記憶をたどる静けさが宿っていた。


「そして最後には、彼らから“神”になること——つまり“管理者”側になることを要求された。——でも……ボクはそれを拒否したんだ」



 白石が、はっと顔を上げる。



「なぜ……?」



 カイは穏やかに微笑む。



「その“管理”の先に、人間の”真の進化”はないと知っていたからさ。

 つまりボクは”彼らの管理”を拒否し、否定した唯一の人間だ。


 ——それでも、まだボクはこうして生きている。その意味がわかるかい?」


 震えながら白石が口を開いた。


「——つまり、“人間”に(神々)らの支配を超える可能性があるってことですか?」


 その静かな言葉が、俺の胸に響いた。


 佐藤カイはその問いに頷くことなく、ただ優しく微笑んだ。



「これから話すのは、君たちの”選択肢”についてだ」



 その時——俺は、まだ見ぬ“何か”の気配を、確かに感じていた。



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