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黒の魔女  作者: 希望無人
12/32

12話 幸運を呼ぶ粉

 ——こうして、俺たちは二人同時に課題をクリア。

 あとは結果を待つのみとなったが……

 

「そういえば、忘れていたことが一つあった」


 思い出して、あ、と声が漏れた。


「どうかしたの?」


「試験が始まる前、親切な人からこんなものをもらったんだ」


 確か、幸運の粉だとか言ったか。

 ハルトの得意げな顔が脳裏に浮かぶ。


「それ、何?」


「開くところによると、幸運が舞い込んでくる粉らしい。結局、世話になる機会はなかったがな」


 せっかく貰ったのだし、使わないというのも失礼か?


「使ってみたら?」


「そうだな、どんな幸運が訪れるかは分からないが……」


 試しに開けてみることにした。

 パキッと音を立てて封が剥がれると、中から黒い砂つぶのようなものが巻き上がって、森の方へと流れていった。

 同時に、腐臭のような臭いが鼻をつく。


「……ん? この臭いは……」


 何か思い至るものがあったのか、エルフィは顔を顰めた。

 彼女が言葉を続けるよりも先に、異変は発生した。


『ウ゛オオオオオオオ!!』


 オーガか、タイタンか、あるいはそれ以外のロクでもない何かの雄叫びが森中を駆け巡った。

 それを皮切りに、あらゆる魔物らしき気配が続々とこちらに向かって集まってくる。


「アルト……その粉、誰から貰ったの?」


「えっと……他の受験生だ」


 そう言うと、エルフィは生暖かい目線をこちらに向けてきた。

 なんなんだ、その目線は。

 

「——時に、君は初心者狩りという言葉を知ってる?」


 随分と急な話題転換である。


「ルドリンク魔剣士学院の入学定員は、大体千人前後。それに比べて志願者は約一万以上に上る。当然、他の受験生を蹴落とそうと画策する輩が現れるようになった。中でも初心者を獲物にしている連中は、初心者狩りと呼ばれているの」


「へー、それは初耳だなー」


 なんだか、話が読めてきた。


「初心者狩りは、情報提供をしてくる体で受験者に絡んで、受験者に不利になるようなアイテムを持たせる。

 そう、この『魔物を呼ぶ粉』みたいなものをね」


 俺はとうとう頭を抱えた。

 まるまる、端から端までハルトの条件と一致する。


「俺は、騙されたってことか」


「まさしく、その通りのようね」

 

 やっぱり他人と関わるって、超絶面倒くさい。


「フフッ、君ってこういうのに騙されるタイプなんだね」


 笑わないでくれ、余計惨めになる。


「でも、ちょうどいいや。体が鈍って仕方がなかったの」


 エルフィは伸びをして、杖を持ち上げた。


「……エルフィ?」


「今夜はパーティーよ。魔物爆散パーティー」


 年頃の少女には似つかわしくない文字列だ。


「は、ハハハ、お付き合いします……」


 これは俺が引き起こした面倒ごと。

 俺の手を以って解決に当たらなければならない。


 魔物の大群はすぐそこまで迫ってきている。

 気分はさながら、万軍を前にした一騎当千の大英雄といったところか。


 実に、面倒だ。これが避けられる面倒ごとなら、どれだけ良かったかと思う。

 息を吐いて、俺は木剣を抜き放った。


「行くか」


 その夜、号哭の谷に無数の爆炎と剣戟が走った。

 エルフィは結構楽しそうだった。


 =====


 それから魔物爆散パーティーを一晩中楽しんだ俺たちは、無事に森を抜け出すことができた。


 帰りは歩かされるのかと思ったが、流石に転移門が用意されていた。

 こうして試験を終えた俺たちは、それぞれ結果を待つため帰宅することとなった。


 去り際に、エルフィは「また会いましょうね」と言っていた。

 ……どうやら彼女は俺たちが試験に合格したことを確信しているらしい。


 そう言う俺も、別に合否の心配など微塵もしていなかった。

 つまり、油断していた。

 


 

 ——三日後。


「さ、最悪だ……」


 試験結果の用紙が送られてきた。

 当然というわけでもないが、結果は合格。ひとまずは、大一波を乗り越えたと言っても良いだろう。


 だが、問題はそこではない。


『——貴殿の課題解決能力、戦闘力、魔物討伐数を総合し監査した結果、貴殿が()()()()()()()に選出されたことをここに記す』


 目を疑った。

 何度読み返しても、読み間違いなどではなかった。

 

 ……ここで一つ、俺の試験前のスタンスを思い出してみよう。


 ——ひっそり、目立たず、そこそこの結果を出せばいい。


 思い出せただろうか、いや、思い出すまでもない。これこそが俺の信条である。


 では、もう一度結果を見てみよう。

 

 ——成績上位者十名。


 一万人の受験者の中の、十人。

 一千人の合格者の中の、十人。


 これが、ひっそり目立たずそこそこの結果か?

 否。それどころかその対極である。


「あの、魔物を呼ぶ粉のせいだ……」


 ちょっと多めに魔物を倒すだけだったのなら、まだ受け入れられた。

 しかし、試験官は俺たちが倒した魔物の一体一体までを記録し、加点したのだ。


 その結果点数は青天井に増加し、こんなことになってしまった、と。


 最悪だ。最悪もいいところだ。


「これ、成果物に入るかな……」


 アストレア家が俺に提示した条件は、一年間学院に入学し、一定の結果を上げろというものだった。


 あわよくば、この試験結果を適応できるかもしれない、と思った。

 しかし、そもそも俺は入学してすらいないし、さらにいえば家がこの成果を俺が成したと信用してくれるかも怪しい。


 そう、難しいのはそこである。

 例え俺が目覚しい結果を達成したとして、それを家に報告したら偽装だと取り合ってすらくれない可能性がある。


 つまり俺は、「出来損ないのアルト・アストレアでも、頑張ればギリギリ達成できそうなそこそこの成果」を意図して達成しないといけないのだ。


 これまた、なかなか骨の折れそうな課題だ。

 ますます、先行きが不安になってくる。


 入学式は一週間後、か……

 

「どうか何事も起きませんように……」


 普段は神頼みなんてしないけど、今ばかりは何にでも縋りたい気分だった。

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