黒いドラゴンと、あべこべの剣。その四。
「もっとこの王都を破壊しろ。そうすればお前たちの身に、とっても愉快なことが起こるだろう」
その声はとても小さなモノだったが、黒い聖なるドラゴンと、光の大魔神にはハッキリと聞こえた。
「もう一度言う。もっと、もっっとこの王都を破壊して見せろ! そうすればお前たちは、この世に生まれて初めて『ああ、生まれ落ちて幸せだった』と言う目に遭うだろう!」
ゴウラは恐る恐る自分の背中を見る。
そこに立っている少年は、血の涙を流し【あべこべの剣】を天にかかげていた。
『ひぃ』
黒いドラゴンと、光るグレーターデーモンは。とてつもない恐怖におそわれた。
『闇に生まれた聖なる竜よ、我はこの地から逃げさせてもらう!』そう言って四本腕のグレーターデーモンは、さっさと【魔法陣】に飛びこんで消えた。
『待たれよ! 光の大魔神。私を一人にしないでおくれ…』ガタガタと震えながらゴウラはつぶやく。
「ゴウラー!!」リンド・ルークは、黒いドラゴンを呼び捨てにした。
『ひゃい! 何でございましょうか?』
「これからオレはあの王女に取り付いた【魔術師の亡霊】を倒さない! お前はオレにまったくチカラを貸さなくていい! 解かったな!!」
『解かりましたぁ!!』ゴウラはそう言うと、事の成り行きを半ばボーゼンと見ていた王女様に向かって急降下をはじめた。
王女に取り付いた【魔術師の亡霊】は、急降下で襲いかかるドラゴンを迎撃しようと【呪文】をとなえようとするが。少年が【魔法の剣】をむけて。
「お前には全能のチカラがある!」と、言われた瞬間いっさいのチカラを失い。
「この剣は王女様だけをズタズタに切り裂く!」と少年が言うと、突然剣がドラゴンよりも長く伸びて【魔術師の亡霊】は、なにが起こったのかも分からずに切り裂かれて消滅した。
──その後の事を少し書こう。
黒いドラゴンに乗ってやって来た少年は、倒れた王女様に近づくと、その手をとってしばらく見つめ。
安堵のため息をついた。
そのあと、おそらくは【魔法の剣】であるらしい小ぶりのその剣をふり回しながら、何かをささやくと。
何とあれだけの破壊のつめ跡を、元のカタチに戻して行ったのだ!
すべてが元に戻ると、まだあどけなさの残る茶色のくせ毛を持った少年──いや、ドラゴンライダーは。
自分のドラゴンと何事かを話すと、その黒いドラゴンの背中に乗り。
南の方へと飛び去って行った。
王女様はその少年がどこの誰かを知るために、情報を集めておいでだがおそらく無駄になるだろう。
「リンド起きて、もうすぐ朝よ!」リリーはそう言って、幼なじみのリンド・ルークを起こしに来る。
「うぅんん、リリーもう少し寝かせてくれよ…」
「ダメ!」リリーの『ダメ出し』が、今日も出てしまった。これでは絶対に二度寝は出来ない。
「分かった、分かったから。すぐに起きるから。だからそこの椅子にのっけてるズボンを取って渡してくれないか?」リンドがそう言うと。
「バカー!」そう言い残してリリーは、あわてて出て行った。
「ねえリンド、結局あなたの手に入れた小剣は何だったの?」そう言ってリリーは、リンド・ルークのベルトに挟んである剣を、ツンツンとつついた。
「あんまりつつかないでくれ、なまくらだけれど【魔法の剣】なんだから」そう言ってリンドは小剣を手に取ってささやく。
【おまえは何でも切れる】
そしてリンドは立木に向かって剣を振り下ろす。
「な?」
「…傷もついていないわ、逆に凄いわね…」リリーはそう言って感心する。
「…本当の事なんて言える訳がないじゃないか」リンドはため息をつきつつ、リリーと分かれて森を歩く。
ドラゴン? 魔術師? 【あべこべの剣】? そんなこと誰が信じてくれる? リンドは深くため息をついた。
「本当のことなんて言える訳がない」黒い髪をさわってリリーはため息をついた。
「大体リンドが悪いのよ! あの剣をふり回して未来永劫現れるな、何て言われたら離れてなんて居られる訳がないわ」リリーことゴウラはそう言うと、その顔を赤くして、深いため息をついた。
これにて終了。
お疲れ様です。