黒いドラゴンと、あべこべの剣。その一。
その日、十三歳になったリンド・ルークはウキウキとした足どりで。うら山の祭壇へとつづく道を歩いて行く。
リンドの住む村では。十三歳になると、ある試練をうける資格が与えられる。
それは。
祭壇の奥にあるとされる『二つまでねがいを叶える小剣』を抜く資格だった。
もちろん、今までにもその試練をうけた十三歳の少年はいた。
だが、その『小剣』を抜いた者はいなかった。
それどころかほとんどの少年は、その試練の日に限ってふだん通いなれたはずの祭壇への道を迷ってしまい、たどり着くことさえできない者までいた。
だがリンド・ルークにはみんなには無い才能があった。それは【魔法のかかったモノを見分ける】と言うものだった。
小さい頃からもっていたこの才能を、リンド・ルークの母は。
「決してだれにも言わないように」と耳にタコが出来るほどに、リンドに言いきかせてきた。
最初の頃こそ『なんでそんなに口うるさく言わなくても』と思っていたが。
今では母に感謝している。
母は『この日』のために自分の、この【才能】を隠せと言ってきていたのだと解かったからだ。
「祭壇はこっちか?」いつもの道、いつも遊んでいる場所なのに。なぜか今日にかぎって祭壇に近づくことが出来ないリンドは【チカラ】をつかう。
「まるっきり反対の方向じゃないか!」リンド・ルークがそうつぶやく。
何度か道を間違えつつも、リンドは祭壇へたどり着く。
「ん?」みどり色の瞳で、祭壇の奥にある洞窟を見る。
「…なにかがこっちを見ている?」茶色いくせ毛の髪が逆立つような感覚。間違いないこの洞窟の奥にはなにかが居る!
「行…てやる!」リンドはそう言って、ランタンに火をつけ洞窟の中へ入っていく。
二百メール(約二百メートル)ほどで、目的の場所へとたどり着く。
そこには黒い岩があり、その上に伝説通り白い小剣が刺さっている──だが。
「何で?」リンド・ルークはその小剣から、何だかイヤな雰囲気を感じる。
二回のねがいをかなえる、と伝説では語られている聖なる小剣。
だがリンドにはその小剣から、怨みのようなモノを感じた。
抜いてはいけないと、心の中でなにかがささやく。──だが、リンドはあの小剣を抜くためにここへ来たのだ。
「……抜くふりをする位なら、問題ないか……」そう思って三十セチ・メール(約三十センチメートル)ほどの大きさの黒い岩のてっぺんに刺さっている、白い小剣に手をふれる。
スポンっとあっけなく抜けた小剣。
「え?」リンド・ルークはその小剣をまじまじと見る。
するとその手の中の小剣から黒い霧のようなものがあふれ出る。
「うゎあ! 出て来るなぁ!!」思わずリンドはそう叫ぶが、黒い霧のようなものは。
『フハハハハ!』と笑い声をあげながら洞窟の外へと飛び去って行ってしまう。
ぼう然として黒い岩にすわり込んでしまうリンド。だが、そんなリンド・ルークには更なるおどろきが待っていた。
『おい、そのケツをどかさないか! さもないといくら恩人でも怒るぞ!!』突然しゃべり出した黒い岩。
「うわぁぁ!!」あわてて立ち上がるリンド。
黒い岩…、いや。黒いゴツゴツとした、皮膚をもったその生き物は地面を割り砕きながらその巨体をリンド・ルークにさらす。
「ドドドッドラゴン!?」それは、まさしく黒い巨大なドラゴンだった。
『クックック、そうとも私はドラゴン、名を──』リンド・ルークは小剣をふり回しながら叫んだ。
「ししし、知りたくも無い!!」だがそんなリンドを無視するように、黒いドラゴンはしゃべり続ける。
『小剣をふり回されると、真名までしゃべり出しそうだなぁ。まあいい、我が名はゴウラ。ゴウラ様とでも呼べばよい』黒いドラゴン、ゴウラはそう言ってグッグッグと笑う。
『さて、小僧。この私を助けたのだ、名前ぐらいは聞いてやる』だが、パニックのリンドは。
「あっちへ行ってくれ! 僕の近くに居ないでくれ、サッサと何処か遠くへ行って二度と僕の前に、未来永劫現れないでくれぇ!!」そう叫んだ。
『チッ』なぜかゴウラは舌打ちをするとこう言った。
『私は一刻も早くこの場所から出て行きたいのだが、おまえ達はそれで良いのか?』何か含みのある言い方で、ゴウラはリンド・ルークに話す。
リンドはなけなしの勇気を出してゴウラと名乗ったドラゴンに話かける。
「ど、どういう意味だ?」するとゴウラは真っ赤な目でリンドを見ると、憂うつそうな、それでいて楽しそうな口調でしゃべり出す。
『私と共に封印されていた【魔術師の幽霊】が、この後何をどうするかってことだ』
おとぎ話って、こういうモノでも良いのだろうか。