表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/464

第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(9)

―――フラウロウ西北西のとある路地・紅花夜空


「夜空さん、少し待ってください……」


 その声で立ち止まり振り返る。

 ルトさんは息を荒くしながら、苦しそうにしていた。


「大丈夫ですか!」


 駆け寄って身体を支える。


「はい、ただ、身体が……。こんなに走ったの、40年ぶりで。嫌ですね。180にもなると、身体の衰えを感じてしまう……」


 良かった、怪我をしたとかではないらしい。

 これくらい離れてしまえばそれほど危険でもないだろう。少し休んで……。


「あら、本当にいた。てっきり感知器が壊れたのかと思ったわ。その顔を見るのは40年ぶりね、ルト?」


 突如路地の影から現れた女性に話しかけられた。

 ルトさんが冷汗掻きながら、身体を一瞬震わせる。


「だ、誰?!」

「私は"女帝(エンプレス)"、キロフ。そこの女を殺しに来たの」


 キロフと名乗るその女性が、妖しい笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきた。


「ルトさん、あいつって……」


 今の会話から女の正体について嫌な結論に辿り着く。


「はい。40年前、私たちを襲った二人組のうちの一人です」


 ですよねーーっ?!

 ヤバいって、私はまだ人間どころか、魔獣相手の戦闘すら経験がほとんどないってのに、こんなヤバそうな女、相手にできないって。


「ソラったら、本当にルトに会わなかったのね。呪いのかけ損だったわ」


 その言葉にルトさんが反応する。

 

「……ソラさんに何をしたんですかっ?!」


 怒声を上げた。


「何って、呪いで声を奪ただけよ。安心して? 解呪方法も一緒に教えてあげたから。あなたに触れればよかったのよ。でもそうすると、あなたに仕込んだ追跡の呪いが変革し、あなたを取り殺してしまうのだけれど」

「酷い……」


 つい声が漏れてしまった。

 目の見えないルトさんとのコミュニケーション方法、それをソラさんから奪うなんて……。


「夜空さん、武器をお持ちであれば貸していただけませんか……?」


 ルトさんが立ち上がって、静かに言いながら私に手を出してきた。


「き、気持ちはわかりますけど、その身体じゃ……!」


 ここはなんとか逃げて白たちと合流して……。


「夜空さん、農家の方がお野菜を届けてくださっていた話、覚えていらっしゃいますか?」

「? は、はい……」


 こんな時に何の話だろう


「あの方、……お声を出すことができない方だったのです」

「えっ?!」


 つまりそれって……。


「ソラさんはきっと、その死の間際まで、近くで私の事を見守り続けていてくださったのです」


 想像する。

 20年もの歳月愛する人と会える場所にいながら、自分の正体を明かせず触れることすらできない、それはどれほどの辛さだっただろう?


「そうまでして守り抜いてくださったこの命、簡単に散らすわけにはいかないのです。逃げても呪いで追跡されてしまうのならば、返り討ちにするまで。夜空さんはまだ戦闘に不慣れなようですから、私が応戦します」


 強い人だ、と思った。


「わかりました」


 私の持っていた杖から仕込み剣を引き抜き、手渡す。

 すると、ルトさんは不思議そうな顔をした。


「これは夜空さんの剣ですか?」

「いえ、貰い物の借り物といいますか……」


 白が誰かから貰ったものを、武器がない私に貸してくれたのだ。


「なるほど。気分屋でありながら我が強く、暴れ馬のような剣だ。元の持ち主の気の強さが伺えますね。私にどこまで扱えるかどうか。まるで私が試されている気分です」


 ルトさんが目を覆っていた包帯をするりと外した。

 そこにあったのは、同じヒトとは思えないほどに美しい瞳。それはまるで、夏休みの青空を水晶に閉じ込めたかのようだった。

 視力の無いその両目で女を睨む。


「では、行ってきます」


 そう言って地を蹴り飛び出した。

 壁を走り、回転を加えながらキロフに斬りかかる。

 速い。

 私が気力と霊術で視覚を強化してやっと追える速度。

 流石、歴史の片隅に名を残している人物だ。今の私なんか足元にも及ばない。

 しかし、それに対応できているキロフもまた化け物だ。

 短剣を美しく操り、ルトさんの猛攻を華麗に捌いている。

 私の目にはどちらも互角に映っていた。下手な援護をしてしまえば、逆に邪魔になってしまうだろう。

 私はただ、見守ることしかできなかった。



―――世利長愛歌の記憶領域:file.9【サクラ杖剣】―――

 いわゆる仕込み刀ってやつかな。魔術の補助器具の杖、近接武器の細見の剣の二形態がある武器なの。

 白が前に仲間だった人物から貰い、武器を持っていなかった夜空に預けたの。

 並の武器より強い力を持ってるのよ。

明日もよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ