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第8話:大樹の巫女祭(9)

 その後は白と他愛もない話をしていると、愛歌とノアちゃんが夕飯を持ってきてくれた。


「よくこんなに買ってきたね……」


 普通じゃ抱えきれない量の食事を、愛歌の言霊魔術で全て仕舞って持ってきたらしい。


「おい。この世界には世利長家の資産はないんだぞ」

「うるさいわね、わかってるわよぉ。たまに贅沢することもできないくらい蓄えがないわけじゃないでしょ。それに私たちは全部少しづつ割引にしてくれるって話よ」


 ああ、忘れてたけどこの人お嬢様だったね。

 そう思っていたら愛歌が全員のグラスにワインを注ぎ始めた。


「ちょいちょいちょいちょい。私たち全員未成年でしょうが?!」


 あれ、18歳成人になったから未成年って言葉は間違ってるっけ。

 あーもう、めんどくさい。


「堅いこと言わない。それにこの国は16歳成人よ」

「……」


 まあ、じゃあ、仕方ない、か?

 他にもフラエル皇国の伝統料理が並んでいく。

 お祭りで売られているものだからいわゆるB級グルメ的な感じだ。

 おいしそうな物もあるが、正直食べたいと思えないものもある。

 食わず嫌いでこの一年避けてたけど、今日くらいは挑戦してみるとしようかな。


 愛歌が準備している中、街の方を眺めた。

 紫色に染まる空と街中を飛ぶ魔法の蠟燭(ろうそく)が幻想的な風景を作っていた。この蝋燭は大樹の巫女祭の時期になると売り出されて、町中に皆が飾る。

 赤青緑黄それと白と紫。6つの色の火が灯る。その光を精霊に見立てているらしい。

 かつての大樹に住んでいたエルフ文明では、この日に巫女が精霊を呼び出し儀式を行った。

 その時の風景は今の様に町中を精霊の光が飛び回っていたらしい。

 ただ現大樹の巫女、つまり天帝さんの代には既にその儀式は継承されていなかった。つまり少なくとも1200年前には既に本当の儀式は見ることができなくなっていたんだ。

 その代わりに現代では蠟燭を使ってその時の光景を再現しているらしい。


「お、はじまるぞ」


 白に誘導されステージをみるとミュージシャンたちが演奏を始めようとしていた。


「いいタイミングね」


 そんなBGMをバックに愛歌がそう言った。


「じゃあ、私たちのこれまでの一年これからの旅に!」

「乾杯」

「かんぱーい!」

「……」


 正直に告白すると、この後数十分後からの記憶がほとんどない。

 代わりに朝目が覚めた時頭がガンガンする中で、ノアちゃんからはいつもより少し冷たい視線を送られ、白と愛歌にはお前はあまり酒を飲むなと言われた。

 ……解せない。

次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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