第8話:大樹の巫女祭(3)
まずい。
何がまずいって。
「はぐれた……」
森の中で迷子になってしまった。
「もう夜だよ。参ったな……」
依頼を受けて翌日昼に荷物が襲われた現場に着き、話を聞いた。
そこから荷物を持って行った痕跡が残っていたので、そっちに白や治安隊と進んできた。
進んでいたら濃い霧が辺りを覆ったと思うと、数分後には晴れ、白がいなくなっていた。
荷物を持って行った跡はずっとあるから、迷子は白の方かもしれない。
白はわりと方向感覚強い方だ。寧ろ私の方が方向音痴なくらいだし、心配はいらないと思うんだけどね。
私は私で盗賊団を探そう。
この世界に来たばかりの頃だったら、魔獣が怖くて一人じゃ不安だったと思う。今じゃ大抵の魔獣は一人でも対処可能だからあまり怖くはない。あと今日が月明かりが強い夜であることも心を落ち着かせている。
とはいえ……。
「危険エリアの近くなんだよねー、ここ」
ここら一帯はアマゾンの半分くらいな広大な密林のエリアだ。全体が政府指定の危険区域となってる。
こういったエリアはフラエル皇国の中にいくつかあるのだが、その中でも最高ランクだ。
他のとこは危険な魔獣が生息しているから、毒ガスが漂っているから、地形的に危険だから、様々な理由があるが、ここだけはよくわかっていない。
そんなエリアであるわりに有用な物が採集できるわけでもないから、基本冒険者は近づきたがらない。
仕方ないからとにかく進めるだけ進んでみよう。
白とはぐれてから30分くらい経った頃、月明かりが強く差し込む広場に出た。
そこに大きな荷物が置かれていて、その上にそいつが座っていた。ワインを飲んでいるようだ。
「ふむ。想定よりも3分50秒速かったな」
そう不敵な笑みを浮かべながらその男が言った。
深い金色の髪と青い瞳。なんていうか……、イケメンだ。
なんていうか、こう……、妙に魅かれてしまう色気を纏っている男だった。
しかしそのきりっとした目で荷物の上から見下ろされているのがなんかムカつく。
「あの人たちはあんたが殺したの?」
広場の端に数人の治安維持隊や盗賊と思しき人々が倒れていた。
「ほんの少し呪術をかけてやっただけだ。死んでなどおらん。価値のない者を殺し、この身を汚したくはないのでな」
言葉と一訊いただけで5にも10にもなって返ってくる感じから、こいつのプライドの高さが伺える。
「で? その翼はなに? アクセ?」
そう、その男は背中に一対の純白の翼を携えていた。
月明かりに照らされ積み上げられた荷物の上でワインを飲んでいるその様は、正直絵になった。
「本物だ。我は天使族でな」
「へー、そ。それで、天使様がなんで人の荷物を狙うの? 神様への供物?」
「いーや。神がこんなものを欲しがると思うのか?」
「知らないから聞いてるんだけど」
なんていうか、話しにくい相手だ。
「この荷物を奪えば貴様らに会えると聞いてな。一度見ておきたいと思ったのだ。この世界に送り込まれてきた超人を」
「ッ?!」
こいつ、私たちが超人だとわかって……。
「へ、へぇ。で、誰から訊いたの? おかかえ占い師でもいるわけ?」
「霊力だ」
「……」
確かに霊力とリンクすれば未来予知も可能らしい。
でも、直近の危険を警告してくれる程度のもので、こんな予言レベルの万能能力じゃないはずだ。
「それで? あんたは私を殺しに来たってわけ?」
「言ったであろう。価値のない者で我の身を汚すつもりはない」
その相手を目の前にしてよくそういうことがいえるな……。
しかし、なんか、こいつはヤバい。
根拠はないけど本能がこいつはヤバいと全力で警告してきているようだった。
次回以降も読んでくださったら嬉しいです。




