第8話:大樹の巫女祭(2)
帰路はとても賑やかだった。
町は特別な装飾がなされ、私たちにとってはより一層異世界に来たな、と思える様子だ。
大樹の巫女祭。
この国の一年の節目、大晦日と新年一日目、合計二日間にかけて行われるお祭りだ。それがもう目前に迫ってきている。
天帝エルリフィが天帝として即位した年を一年、その日を新年の一日目として数える。
この祭りは今年も天帝の統治する国が平穏に終わっていったことと、そして来年の平和を祈る祭りだ。
私たちは、この祭りが終わった直後にこの町に来た。
この町に来るまでの間に少し時間があったから既にこの世界に来てから一年が経ったことになる。
早いもんだな、なんて思いながら家に入った。
「ただいま」
「おかえり」
家に入るとちょうど白が出かける準備をしていた。
「帰ってきたところで悪いんだけど、依頼が入ったんだ。来るか?」
「シャワーだけ浴びてきてもいい?」
「ああ、それくらいなら時間あるよ」
外で流した汗をシャワーで洗い流し、服を着替えて白と共に外に出た。
「で、急になんで依頼が?」
「さあ。さっき家にいたら、焦った様子の人が家に来たんだ。で、準備したいからあとで向かうよって言ったら、ここから一番近い広場で待ってるからってさ」
なるほどね。
「ったく、今日は俺が休みの日だったのに……」
「私一人で行こうか?」
「いいよ。どーせ暇だったし」
水路を舟で揺られ数分、広場前まで着いた。
そこはより一層賑やかだった。広場には何やらステージのようなものが設置されている。
「なんか大変そうだね」
「大晦日にはいわゆる音楽ライブがあるらしい。この世界の伝統音楽には興味あるし、見に来ようと思ってるよ」
「いいね、楽しそう」
いつも冒険ばっかでこの国の文化に深く触れる機会がないから、そういうのは楽しみだ。
「あー、こんにちは。用件はなんでしたっけ?」
そこにいた男性に白が声を掛けた。
「来ていただきありがとうございます。新蜂ほどに信頼のある冒険者の方にしかお任せするのが難しい事態でして……」
去年まで使っていたスピーカーが壊れてしまったらしい。
そこでかなり古くなっていた音楽用の機器のいくつかを買い替えることになったのだとか。
遥か北東にある大国クレルラル製の最新機器を輸入してくる予定だったらしい。
ちなみにクレルラルはフラウロウとは逆で、科学がかなり進歩している国だ。
聞いた話だけだけど、私たちの世界に匹敵する科学力を持っていると思う。
「しかし輸送中問題が発生したらしく……」
クレルラルからの窓口、アルフ港からフラウロウまでの長い距離を輸送中、盗賊団の襲撃に遭い製品を奪われてしまったらしい。
それを取り返してほしいのだという。
「……それって治安隊がどうにかすることじゃないですか?」
うん。こういう場合はそっちがメインで動くはずだ。
冒険者が動いてはいけないわけじゃないんだけどね。二次被害が生まれる場合もあるから基本的には冒険者にも依頼をしたりすることは少ない。
「そうですね。ですがもしもの事を考えて、治安隊への動向をお願いしたいのです。祭りに間に合わない、という事態を避けるために」
そのための申請は既に済ませてくれているらしい。
「まあいいか。報酬は?」
報酬としてまあまあな金額とステージのVIP席を用意してくれるとのことだ。
ということで、私たちは盗賊団の対処に向かうことになった。
次回も読みに来ていただけたら嬉しいです。




