閑話:とある兵士の走馬灯
(なにが……、起きた……)
半身が瓦礫に埋もれた男は朦朧とする意識の中、状況を把握しようとしていた。
ここはとある軍事宗教国家、その町の一つ。
完全な要塞と化していた目の前のその町が、まるで巨大地震にでも襲われたかのように見るも無残な瓦礫と灰の山になっていた。
情報が正しければこれは、たった一人の男によってもたらされた災害である。
数時間前、敵襲の警報が町中に鳴り響いた。
すぐに地響きが鳴る。どこかの門が破られたらしい。
そしてまた続報が入ると、敵側の要注意人物とされていた男がたった一人で攻めてきたらしい。
もっともガードの堅いこの地域には非戦闘員が非難に来る。
彼の任務は彼らの護衛だった。
そしてその避難誘導も護衛位置につくまでも、訓練通りに順調にいっていた。
が、気づいた時にはこうして瓦礫の下に埋もれていた。
しかし微かに覚えている。
自分の息子くらいの青年がここを襲撃し、なんでもないことかのように殺戮を行った。戦闘員だけでなく、女も子どもも……。
あの状況を思い出せば、今自分がこうして生きていることさえ、奇跡と言えるかもしれない。
「まて、待ってくれっ!」
どこかからそんな声が聞こえた。
地面から目を離すとそこには2人の人影があった。
1人は自分と同じ軍服を着た男。
もう1人は……。
(あいつだ……!)
忘れるはずもない。
ここを襲撃した青年、それがそこに立っていた。
そいつに向かって軍服を着た男が命乞いをしていた。
「そ、そうだ。俺童貞なんだ……!」
「あ? いきなりなんだよ?」
「同じ男ならわかるだろ? このまま死にたくないんだよ」
なんとも情けない。
しかし、これが追い詰められた人間というものなのだろう。
「てめぇは、てめぇらは何人のガキを殺した? 俺からしちゃあな! んなことどうだっていいんだよ!」
「ひぃっ!」
ぐしゃあ、という音と共に、そいつは殺された。
そして青年はこちらに向き、歩いて来た。
「わるいな。てめぇも殺す」
「……なぜだ? なぜこんなことしてる! 貴様も女子供を殺したじゃないか!」
「……」
青年は一度動きを止めた。
「もう俺は止められないんだ。これは俺が始めたことだから」
「……」
その目はまるで獣のようで、同じ人間とは思えない気迫だった。
「お前は……、なんだ……?」
「さあな……」
そう言って首を斬り落とされた。
その最中彼は思った。
もしここに生き残ったものがいるなら人々は青年をこう呼んだだろう。
魔王、と……。
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