第6話:かつて魔王と呼ばれた男(1)
雨音が部屋に響く。
重苦しいその雰囲気につい、「ぅぅ」と声を出してしまう。
少し前に不倫調査の依頼を受けた。覚えてるかな。砂漠での依頼を受けに行く前の事なんだけど。
依頼主はトルレンスという男性。資産家で、割と有名な会社の経営者。結婚して3年、奥さんが不倫をしているのではと疑うようになり私たちに調査を依頼してきた。
他の依頼をこなす傍ら、愛歌さんがコツコツと証拠を集めてくれていた。そして本日家に不倫相手を連れ込むことがわかったので、白と3人で突入することになったのだ。
奥さんの不倫相手は冒険者、ガイール。まあまあ名を馳せているベテラン冒険者だ。
身体は大きいしかなり腕が立つ人物であったことは間違いないんだけど、裸で無防備な状態じゃ取り押さえるのは簡単だった。
今はリビングに移り、テーブルに当事者3人が座り、私たちは少し離れたソファに座って成り行きを見守っていた。
奥さんが喚き散らしたり、最初は理性的だったトルレンスさんが奥さんにつられて感情的になっていってしまったり……。ありゃもう地獄だね。
私たちが仲裁しようものなら、部外者は入ってくるなと怒鳴られるし……。でも腕の立つ冒険者がいるとなると放置してくのも危ない。
そして現在、お互い少し疲弊したのか気まずい沈黙が流れている。
(はぁ……、やっぱ修羅場なんてまとめサイトで眺めとくのがちょうどいいわ。立ち会うもんじゃない)
奥さんは開き直ったのか毅然とした態度で黙りこくっている。
ガイルはというと、最低限の良識は持ち合わせていたのか、青い顔で小さくなっている。じゃあ最初からやらなきゃよかったのに。
「ちょっと白」
隣にいた白に小さな声で話しかけた。
その白はのんきに読書をしている。
「どうにかしてよ」
「いや、俺らは弁護士じゃないし……」
確かにそりゃそうだ。
この国にもそれに近い職業はあるんだし、2人もさっさと今日は別れて弁護士交えて話しゃいいのに。
「とは言え、もう潮時だな。飽きたし」
白が本を閉じてトルレンスのとこに向かう。
「あーんじゃ、トルレンスさん。俺らの仕事は終わったので帰ります」
「ほらあんたはさっさと立つ」
ガイールの首根っこを掴み立たせる。
これ以上夫婦喧嘩に付き合わされるのも御免だ。さっさとお暇するとしよう。
「すまなかったね。これ、報酬キー」
ブローカーにあらかじめ報酬を預けておき、鍵となるパスワードを介して後から報酬を受け取る方法を今回は取った。
今受け取ったのはパスワードのメモ。
「ありがとうございます。では。……あ、そうそう奥さん。この女性、ご存知でしょうか」
白が帰り際、奥さんにだけ見えるように写真を見せた。
「何なんですか。こんな人知りま……、えっ?!」
その写真には依頼主であるトルレンスと高校生くらいの女の子が仲良さげに写っていた。
そう私はもう知っていたことだけど、トルレンスはトルレンスで不倫していたのだ。
しかも自分と半分以下の女の子と。本当にもう……。
だから今日の依頼は本当に乗り気がしなかった。
「これって……」
「さぁ? もし、他の情報が欲しければ、裏に書いてある酒場にいますのでいつでもご相談ください。そちらの写真は差し上げます。では」
トルレンスは激昂し何かを叫んでいたようだったが気にせず家から出た。
「うんうん。今日も今日とて俺らが守るべき人間様は愚かなようで何より何より」
白は満足そうにつぶやいた。
「何もよかないけどね……」
ガイールを放り出しながら出ると外は大雨だった。この辺りは亜熱帯なためか、ゲリラ豪雨が降ることがある。今は雨季だから余計に多いね。
普段活気あるフラウロウも、こうなってしまうと人は屋内にこもってしまう。
私たちも早く帰るとしよう。
次回も読みに来ていただけたら嬉しいです




