表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/387

第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(6)

 ルトさんはぽつりぽつりと話始めた。


「この紅茶は、……ローコルは、彼が好きだった物です」


 いい香りのする紅茶だった。


「この家は彼が魔法で木を組んで造ってくれました。結界も私が中にいれば起動し続けるよう、プログラムしてくださいました」


 静かに、アルバムをめくるように話す。


「冒険者をしていた私たちが近くの港町での依頼を終え、フラウロウに帰ろうとしていた時です。私たちは謎の男女二人組の襲撃を受けました」

「謎の二人?」

「ええ。応戦したのですが、とても強く勝てる相手ではありませんでした」

「白、それって……」

「ああ、それだろうな」


 愛歌さんからこの件に関係するかもしれないと、とある事件の情報を聞いていた。

 連続英雄失踪事件。

 暗黒期と呼ばれる時代の前後に活躍した英雄たちが一斉に姿を消す、という教科書にも載っているらしい未解決の事件が40年前に発生した。

 レオール・ハイン、ネノ・クルト、ロン・サヌラカ、ウィシュタ・ノーロなどなど、この世界では名前を知らぬものがいないほどの英雄たちが被害者名簿に名を連ねている。愛歌さんがルトさんに行きついたのは、この名簿に名前が載っていたことがきっかけなのだとか。

 その襲撃が、事件と関連がある可能性は高いと思う。

 しかしこうしてルトさんが生きているのをみると、名前の載っている人の中でもまだ生きている人がいるかもしれない。


「そして命からがら逃げ出し、この地にたどり着きました。その時気づいたのですが、私には追跡呪がかけられていたのです。魔術師であったソラですら解呪することができず、追跡を遮断する結界を張るので精一杯でした」


 こうして対峙するとわかる、かなり強力な呪いの痕跡だ。

 遮断が可能なだけ、ソラさんは優秀な魔法使いだったと言える。

 

「呪いを解除できないか試行錯誤したのち、私たちはこれからの人生をここで暮らすことにしました。彼はここを最低限の生活ができる環境に変えた後、家族に事情を伝えるため一度フラウロウに帰ることにしたのです。私は目が見えないものですから合言葉も決めていました。数日後に必ず会おうと約束し……。……しかし今まで、彼がここに訪れたことはありませんでした」

「?」

「……?」


 あれ? 変じゃない?

 白も私と同じところに引っかかったようだ。


「どうかなさいましたか?」


 その空気を感じ取ったらしいルトさんが訊いた。


「先程、申し上げた通り、ソラ・トレントットが亡くなったのは20年前です。しかし記録から照らし合わせても、今お話しいただいた事件は40年前のことのはず」


 ルトさんが失踪したと記録されているのは40年前だから。

 しかしそれでは二人の間に、ソラさんが冒険者をつづけた5年間、その後引退してからの15年間、合計20年間空白の時間がうまれてしまう。その長い時間、ソラさんは一体何をしていたのか。しかも……。


「そして残りの余生15年は、先程、話題にも上がった農村に住んでいたようなのです」

「っ!? いえ、でも……」


 ルトさんが何かを思案するようにうつむいた。


「ソラは私のことなどどうでもよくなってしまったのでしょうか……」

「え?」

「そうですよね。目も見えない、おかしな人たちに追いかけられる。こんなめんどくさい女なんて……」

「い、いや……、それはないと……」


 本当にそうなんだとしたらわざわざ近くの農村に引っ越してきたりしたのか。

 あの遺書の書き方も妙だ。


「とにかく、謎はこれを開けていただければわかるはずです」


 そういって白が箱を机に置いた。


「……これは?」

「ソラさんがあなたに遺したものです。あなたが触れなければ開かないようになっているみたいで」

「……」


 ルトさんが箱に手を掛けようとしたのだが、何故かそれを止めて少し考え込む。


「……私、まだ信じたくないんです」

「?」

「ソラさんが亡くなったこと。あなた方の事をまだちゃんと信用で来ていないのもあるのかもしれませんが」


 それは仕方ないよね。偶然にも私たち二人組だし。


「ですから私をフラウロウに連れて行ってください」

「え?」

「ちゃんと受け入れるために、フラウロウに行きたいんです。あなたたちに依頼をしたというソラさんの親戚の方に会い、お墓に会いに行くことができれば、気持ちの整理もできます。これを開けるのはそれからです」


「……わかりました」

「え、白?!」


 つい割って入ってしまう。


「まだ呪いはかかったままなんだよ?! 大丈夫?!」

「40年も前の事だろ? その二人組だってもうルトさんの事なんか忘れてると思うけど」

「でも……」

「それにそいつらより俺の方が強い」


 自信満々に言う。そりゃそうでしょうけども……。


「はぁ。わかったよ……」


 こうして次の日、ルトさんを連れてフラウロウに発つことになった。



―――世利長愛歌の記憶領域:file.6【暗黒期】―――

 300年前から100年前まで続いた、人類が魔王軍と戦争をしていた時代のこと。

 103年前に空から光の翼を携えた勇者が現れて、その戦争に終止符を打ったとされているわね。

 この世界の人間なら、その叙事詩の冒頭は空で言えるようね。

明日もよろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ