第4話:夢見るパンドラ(15)
同日深夜、孤児院の屋上に出て読書をしていたノアにサニが声を掛けた。
「ねえ」
小さな声だったが、ノアは聞き取れたらしい。
サニを一瞥し、また本に目を戻し話始めた。
「……。足、治ったんだ」
「……はい。愛歌さんが私の脳を何かこう……」
「愛歌に弄られたってわけ」
その言い方はちょっとあまりにもじゃない? とサニは思いながら話をつづけた。
「治ったわけではないらしいのですが、寿命も伸ばしていただけたみたいです」
「そ」
ノアは本を読んだまま会話をする。
「で、なに」
「聞きたいんです。なんであの時……、森の中に連れていかれた時、あんなに怒ってたのか」
「……」
一瞬本の上を滑らす瞳を止め、また話す。
「……私は本当の意味で"全てを失った"人とその末路を知っている」
「?」
「そういう人と比べてあなたはまだ手に残っているものがある」
ノアは読書する手を止め、本をしまって空を見た。
綺麗な星空が広がっていた。
「……星には夢をかなえる力がある、らしい」
ポツリ、話始める。
「えーっと?」
「……人は夢を見ずには生きられない。死があるから人は生を認識し、夢を見る。夢が人を人足らしめている、と私は思う」
どんな人だって、明日どうしたいとか、何かしたいとか、そんな小さな夢を見る事だってある。
ノアの言っていることはそういうことなのかもしれない。
サニはそこまでの話をそう噛み砕いた。
「私は死ぬことを許されず、夢を見る事は剝奪され、兵器として生きてきた。そこから解放された今ですら、人として生きて居られているのかはわからない。私の夢は"人になること"だから。私の中の人の定義とは矛盾が生まれるし、それを普通の夢と言ってしまっていいのか、私自身には判断できない」
大抵の人間は自分が人であることを前提に夢を見る。
人になること自体が夢、というのは、夢といえるだろうか。
「死にたいといったあなたの言葉が、生きたいという夢の裏返しなのかそうではないのか私には判断できないけど、あなたはまだ夢を見る力をもっている。人として生きることができる。私にはそれができないから、それを放棄する人をみると、少しイラッとする。それだけ」
言いたいことを言い切った、とでも言うように、ノアはまた本を読み始めた。
「……そう……」
一度空を仰ぎ、また口を開く。
「私、冒険者になりたいんです。私もあなたみたいになれるでしょうか?」
「私の様になるというのは、人ではない何かになるという事。憧れるなら夜空辺りをおすすめする」
「……では、あなたみたいに強くなることはできるでしょうか」
「……頑張って」
ぺら、とノアが本のページをめくった乾いた音が響いた。
「……ありがとう」
満足したように、サニはその場を離れた。
明日も読みに来ていただけたら嬉しいです。




