第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(5)
ルトさんにダイニングルームらしき所に通され、椅子に座った。
「庭で栽培した紅茶です。お口に合えばいいのですが」
とても慣れた手際で紅茶を淹れ、出してくれた。
目が見えないとは思えないほどの手つきだった。霊視覚を使っているんだろうけど、すごいな。
「ここに来るまでに農村に通ったでしょう? どのような様子でしたか?」
言動の端々にまだ警戒を残しつつ聞いてくる。
「……あの村は人がいなくなりましたよ。もう15年も前の話です」
「……っ。……そうですか。もうそんなにも時間が経ってしまっていたのですね……。地元の方が時々、お野菜を持ってきてくれていたのです。私も結界内で栽培しているお紅茶や木の実をお渡ししていました。最近いらっしゃらないので、何かあったのではと心配していたのですが」
ルトさんが紅茶を口にする。
「あなた方には不思議に思うかもしれませんが、私たちエルフは寿命が長い分、時も早く過ぎてしまいます。そして物を見ることができない私は暦を読むことができません」
「霊視覚では文字までは判別できないですもんね」
霊視覚ってのは超能力の一つ。練習すれば誰でも習得できる。
目では把握できない死角を無くせる便利な物だけど、身の回りにこんな形の物があるな、人がいるな、程度のシルエットは読みとれても、そこに書いてあることや顔立ちのような細かい情報までは読み取れない。
わかりやすく言えば、目を閉じて触ったときに読み取れる程度の情報を、そうするまでもなくスキャンできる、って感じ。色や文字はもちろん、今が昼か夜か、そんなのもちろん感知できないだろう。
「加えてこの辺りは季節による大きな気候の変化もありませんから、つい時間の感覚が曖昧になってしまうのです。そういった意味では感覚的な一生の長さは、人間の方とそう差異はないかもしれません」
何か少し、寂しくなる話だと思った。
「所で、この度はどのようなご用件で?」
「だいたいの予測はついているんですよね?」
白が訊き返す。
「……ソラさんに関係があることなんでしょう?」
「ええ。あなた方はどのようなご関係で?」
「私は彼の、婚約者です」
その言葉を聞いてビンゴ、と思ったと同時に心が痛んだ。
婚約者、と言った。過去形じゃない。つまりこの人は、ソラさんが亡くなった事を知らないんだ。
白が一瞬私と目を合わせた後、深呼吸して話し始めた。
「隠してもしかたないことですから、事実をお伝えさせていただきます」
「は、はい……?」
身構えるように座りなおした。
「ソラさんは既に亡くなっています。もう20年も前のことになりますね」
ルトさんは驚いた表情を見せたあと、少しうつむいて、そうですか……、と言った。
「大丈夫ですか?」
「えぇ。少し驚きましたが、どこかでそんな気はしていたのでショックではありません」
嘘だ。
それがわかってしまうのが辛い。
しばらくの沈黙ののち、ルトさんが絞り出すように話始める。
―――世利長愛歌の記憶領域:file.5【霊視覚】―――
空気中に存在している魔法物質、霊力。
それと意識を共感状態にすることで、視力を使わずとも周囲の状況を確認できる、これが霊視覚ね。
人によって少し違いがあって、ルトや夜空はこの話で話されている風になっている。
他の例だと、ノアちゃんはゲームにおけるTPSの様に自分を把握する能力だったり、白なんかは直感的に周囲の状態を把握するという能力になっているわね。
明日も読みに来てくださったらうれしいです。