第4話:夢見るパンドラ(13)
「サニちゃん、だったよね。ごめん、夜空ちゃんからあなたのこと聞いちゃった」
次の日の夕方、サニはベンチに座り海を眺めていた。
そこにノアの要請でこの孤児院に来ていた愛歌が歩いてきた。
塔の残した資料に目を通すのも持ち帰るのも多くて面倒だということで、それを全部スキャンしてもらうために愛歌を呼んだのだ。
「……」
「隣いい?」
「そうやって、人を腫れ物みたいに扱われるのが一番ムカつくんです。勝手にしたらどうですか?」
「うん、だよね。知ってる」
そういいながら愛歌もベンチに座った。
「私もね、余命宣告されたことあったんだ。死んだのは18歳になる手前だから、あなたと同じ時期かな」
「は? 死んだ時期?」
「そうだよ? こんな風に体が透けた人間がいると思う? 人に取り憑かないと存在できない、寄生虫みたいなものよ」
「え?」
サニは今になって愛歌をはじめてちゃんと見た。そして体が透けてるのに気が付いた。
「私が長くは生きられないと知ったのは7歳の時、お母様が亡くなったときか。それが遺伝性の病気だとわかってね。20まで生きられる可能性は5%にも満たない、なんていわれたんだったかな」
「それで?」
「別に? どうもしてないわ。そりゃそうよ。あなたはどう頑張っても早いとこ死んじゃいますよー、なんて言われて、じゃあそれまで頑張ってみようかな、なんてゆー人いるわけないじゃない。とにかくやりたいことだけやってたよ」
「……あなた……、何の話に来たんですか?」
「ん? いや、特に何かあるわけじゃないよ」
「は?」
「似た者同士なら、話もしやすいかと思って」
沈みゆく太陽を二人で眺める。
ため息を吐いて、サニは口を開いた。
「……私も母を亡くしました。会ったこともありません」
「そう」
「お前のせいでラトは死んだんだ、それが父の口癖でした。あ、ラトは母の名だそうです。なんで亡くなったのかは怖くて聞けませんでした」
少し呼吸を置いてまた話始めた。
「8歳の時この場所に来ました。父が暴力事件を起こしたそうで捕まったんです。それまでは毎日のように殴られるのが日常でしたが……、殺される前にここにこれただけラッキーでしたかね。この場所に来て、野菜や魚に火を通すなんて方法初めて知りましたし、お肉やクッキーも初めて食べました」
静かに聞いていたが、何となくで聞いちゃったけどだいぶヘビーな人生通ってきてるな、と愛歌は内心驚いていた。
「すぐに里親の方が決まって……、そこから5年間くらいは幸せでした、わりと。でも葉車の事故で2人とも亡くなりました」
「……」
「またここに戻ってきて……、でも私冒険者になりたくて。それが夢、といえば夢で」
だから夜空さんとかノアさんとかが話しかけてくるとイライラしちゃったんですけど、と小さな声でいいながら続けた。
「だから冒険者に必要なことを勉強できる高等教育機関に通い始めました。ここからだとちょっと大変ですけど、できるかぎり通い続けていました。孤児院で以外の友達もたくさんできたんです。でも……」
少し言いよどんだが、一呼吸おいてまた続けた。
「当時の親友に階段上から背中を押され、それがきっかけで脳に傷を負って歩けなくなりました」
「何があったの?」
動揺を隠しつつ静かに聞いた。
「私、弓の才能が結構あったみたいで、弓の先生……、えと男性の方だったんですけど……、放課後とかもよく練習とか一緒にしてもらってて……。その親友、先生の事が好きだったみたいなんです。……その私は別に生徒として親しくさせてもらっていただけだったんですけど、でも、その人からは私が取ったみたいに感じてしまったらしくて……」
「難しいよね。そういうのって」
だからと言っても許されないことではあるのだが。
そう憤る気持ちを抑えてそう言った。
「それからは仲介店とか冒険者をサポートできる仕事に就くために勉強していたのですが、この前余命を宣告され……」
「そっか」
「……」
太陽が水平線に触れ始めた。
合わせて周囲が赤く染まり始めた。
愛歌の生前の話については、前作を読んでいただけたら嬉しいです。
明日もよろしくお願いします。




