第4話:夢見るパンドラ(12)
ノアちゃんが歩いて入ってくる。
「疑似超人になるのはおすすめしない。無駄に長く生きさせられた上に、自由意思も言動も夢も、その全てを奪われるだけ。それは生きていないのと一緒だよ」
「……」
その言葉にはあまりにも実感が伴い過ぎていた。
サニちゃんも何も言えずにいた。
「夜空、回復魔法は?」
ノアちゃんが血まみれボロボロな私の状態を見て言った。
「あはは、魔力が尽きちゃって」
「そ。じゃあ、こっちが終わるまでそのまま我慢してて」
「うん。頼んだ」
その場に座り込んで身体を休める態勢に入る。
まあ一瞬でしょ、ノアちゃんなら。
ガァーーーンっ!
ノアちゃんが私から敵の方に振り返ると共にそんな大きな音が響き渡る。
ワンドがノアちゃんの頭に棍を叩きつけていたのだ。
「っ?!」
しかしノアちゃんは微動だにしない。
驚いたワンドが少し距離を取る。
「今のは何? 蚊が止まったのかと思った」
「なっ?!」
うわぁ、鋭利な言葉のナイフ。今のは効いただろうなぁ……。
「舐めるなぁああ!」
叫びながらワンドは、ノアちゃんに攻撃を仕掛けた。
しかし目の前からノアちゃんの姿が消え、次の瞬間私がいる方とは反対側の壁で大きな砂埃があがった。
「くっそ……。何故だ。同じ疑似超人のはずなのに、なぜこんなチビに……」
「あなたと私では、そもそも造りが違う。ただの害虫が恐獣に勝てると思う?」
どっかの帝王みたいなセリフを……。
「悪いけど、疑似超人は抵抗する場合始末しろと命令されている。大人しくお縄に着くならこれ以上攻撃はしないけど」
「降参なんてするわけないだろ。俺は疑似超人だが、塔様の改造も受けているんだっ!」
そういってワンドは何かの薬を飲んだ。
すると体が少しづつ変化していき恐獣、とも言えないような怪物になってしまった。
「めんどくさい……」
ノアちゃんがため息を吐く。
「良かったねサニちゃん。サニちゃんもああなってたかもよ?」
「あぁ……、はは……」
引き攣った顔をしている。
「どうだ?! これで立場が逆転したぞ? 貴様が害虫で俺が恐獣だぁ! さっさと殺していればよかったなぁあああっ?!」
そんな話をしていたら、ワンドがそう言いながら笑い出した。
「さっきはよく舐めた発言をしてくれたな。本気を出させてもらうぞ」
「それは実力じゃなくて、塔から与えられた者でしょ……」
ついツッコんでしまった。
ノアちゃんが剣を取り出す。
「はぁ……、確かに、これは一発で仕留めなかった私のミス。白の甘さが移った」
怒り交じりに何やら物騒なことを呟いて、剣を構えた。
「だから次は一撃で屠る」
そう言って助走をつけて高く跳びあがった。
「空を拓く神の偉業」
そして目にも止まらぬ早業で剣光を一閃。
哀れワンドは、全力とやらを見せる間もなくノアちゃんに両断されたのだった。
塔はノアちゃんが登場したあたりから気づけばそこにいなくなっていた。
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