ワタシノセカイ・前編(1)
―――正義の弾丸軍要塞内・紅花夜空
体に溜まった呪いを陰陽術で潰す。
「本当に面倒くさい体質……」
死神の体質。触れたり刀を交えただけでも、その相手が"生"の属性を保有していた場合に、"死"の属性の呪いを流し込む。
それに対抗する方法は2つ。
白の"水"などが持つ"無"の属性で洗い流す。もしくは……。
『"死"の呪いは、"ウイルス"と同義の存在です』
前にセオリさんが言っていた。
つまり自身の免疫系を無理矢理呪いに適応させ、抗体を作り活性化させる。そうすることで呪いを捻り潰すことができる。
私にはそっちしかできない。
「よく耐える。しかし、それではいたずらに体力を減らしていくだけでしょう。キヒヒヒヒ」
「……確かに」
……はぁ。しかたないか。
「っ?」
急に刀を仕舞った私に、グリンは一瞬戸惑いを見せた。
「そりゃあ、本気を出さずにあんたに勝とうなんてさ、甘い考えだったなって、思っただけだよ」
「今までは本気ではなかったと?」
「そうでもないよ。この後も戦いが続くことを考えて、その上では本気出してたかな」
でもこいつがラスボスくらいの気でいかないと、勝てるわけないよね。そりゃ。
(ごめん、セオリさん。言いつけ、破ります)
そう思いながら過去の修行の日々でのことを思い出した。
―――数十日前、セオリとの修行時・デモル京近くの山脈の上
「あなた……、今のどうやったのですか……?」
私の魂源が暴走し、それがやっと収まった後でのことだ。セオリさんに困惑しながらそう訊かれた。
汗が吹き出し、山上の冷気が体を冷やし始めた。
「はぁ……、はぁ……。わかんないですよ。ただ、試合に必死で……」
「……話には聞いていましたが、私も初めて見ました。特に珍しい例だ」
「珍しい例? どゆこと?」
今の現象を知っている……? 今の周囲の景色が急に変わってしまったような現象を?
「修行の途中ですが、少し話しましょうか」
小屋横のベンチに座って話始めた。
「魂源が進化する、という事はご存じですか?」
進化?
「いや、白からも聞いたことないです」
「なるほど。あの方も深くは知らない可能性がありますね。私ですらあまり深くはわかっていませんから」
そうなんだ……。
「魂源は何かのきっかけで進化をすることがあるのです。神威や多重魂のような例外を覗き、大きく三つ進化先があるとされている」
そんなイーブイみたいに進化先があるの?
「あなたのは、そのうち一つ……」
―――現在
「魂界花:狂怖世界!!」
……セオリさんに教えてもらっていた時の事を思い出し、その世界を開いた。
気力を全て消費して世界を開くため、この後の戦闘には支障をきたす。故にあまりむやみに使うなとセオリさんから言いつけられていた。
しかしこいつはここまでしなくては勝てない。あとの事は、あとの私がどうにかすればいい。
「ほう……、魂界花とは……。珍しいものを見ることができましたね」
グリンが笑いながら言った。当然ご存じらしい。
「これは私の"確定"が支配する世界。あなたを逃がすようなことはない」
いつもいつもこいつには逃げられてきた。だからといってその時々でこいつを仕留め切れていたかと言われればわからないが、神出鬼没のこいつの転移能力にはうんざりさせられてきた。
「あなたはもう、勝てないよ」
「ふん。こんな世界を開いたところで。よくも思い上がれたものです!」
敵討ちのための戦いが、今、始まる。




