亡国の私掠船
海洋列車によって上がる飛沫と海を見ながら落ち着かない気持ちを抑えようとする。
「夜空落ち着けよ」
「わかってるけどさ」
はあ……。敵は契約の石をすべて集めた。
天界に対する守りを無くして、何をするつもりでいるのかはわからないけどさ。あいつらがやるんだからどうせろくでもないことに決まってる。
早くしないとどうなっちゃうかわからない。
「フラウロウに行くための最速の手段を使ってるんだ。休める時に休んでおいたほうがいい」
「わかってるってば」
イライラもしちゃうんだよね……。
もう一度水平線の彼方に目を戻す。
「ん?」
そこに何かがあるのを見つけた。
「白、あれ……」
「ん?」
白にそれを見るように促す。
「あれって……」
「船か? この時代に? 海の真ん中で?」
そう大きな帆船のような何かだった。
「いやですわ、白様。海洋鉄道が生まれたからって船が使われなくなったわけではないですわよ? 運送には今だって使われることはあります」
確かにまあ、私たちの世界だって飛行機が生まれたからって船を使わなくなったわけじゃあないしね。
「でもあれかなり古い型の船だね……。帆船なんてもうほとんど……。ん、あれ?」
アルノが何かに気づいたのか窓に近づく。
「誰か望遠鏡とか持ってない?」
「あ、じゃあ私が視力を強化してあげる」
愛歌がアルノの中に入る。
「…………。あ、あの旗……。やっぱそうだ。あれ、クレルラル王国の私掠船だよ」
「しりゃくせん?」
何それ。と訊くと愛歌が
「私たちの世界の話で言えば、大航海時代のころ国家の許可の下、海賊行為を許された船のことを指す言葉よ。敵国とか海賊とか相手に限ってね。フランシス・ドレーク、ウィリアム・キッドとかが有名かしら?」
あー、名前は聞いたことあるけど、多分ワンピースで聞いたからだと思う。
知ってる海賊なんて、黒ひげとジョニデ……、じゃなくてジャック・スパロウくらいだもん。後者も創作だし。
「でも腐敗とかの温床の一つになってね、1856年のパリ宣言で禁止になったの」
「ああ、そうなんだ。ありがとう」
多分20分後には忘れてる。
「で、その海賊? がどうしたの?」
「うーん、わからない。クレルラル王国が無くなったとき、てっきり解体されたものかと思ってたんだけど、まだ雇われてたのかな。だとしたら、なんでこんな海に……。この辺に用なんてないはずだけど……」
「あれ? なんか近づいてきてないか?」
そう白が呟いた時。
ドンッ!
という低い爆音が鳴ったと思ったら、白い水しぶきが天を突くように立ち昇った。その影響で列車が一瞬大きく揺れ傾く。車内は騒然としていた。




