第4話:夢見るパンドラ(5)
「何なんですかあなたは。しつこい……」
「孤児院にいられる時間も少ないからいろんな子と話しておきたいなって。とはいえ午前中のみんなが勉強をしている時間は暇でしょ? それに君って一番歳が近そうだしさ」
「私にかかわらないでください。迷惑です」
あれから二日。何度もはなしかけてみているのだが、進展はなくずっとこの調子だ。
今日も海岸にいたところを話しかけてみていた。
「そんな事言わないでさ。すこしでいいからお話ししない?」
「放っておいてください」
「……」
そんな私たちをこれまで傍観していたノアちゃんが私たちの前にぬっと出てきた。
「な、なに、あんた」
「あなたを見てるとイライラする」
そしてそう言い放つ。
ノアちゃんが自分の感情を口にしたことなんて無かったから驚いた。
「ああそう。だからなに? じゃあ、さっさと消えて」
「無理」
そう言って、サニちゃんの手を強引に引いた。
「ちょっと!」
海岸から少し離れた森の中に連れ込む。
そしてサニちゃんの体をを大木を背にした場所に投げた。
「いった。何すんのよ。ひっ?!」
そして顔のすぐ横に剣を投げ木に突き刺した。
「何……?」
「昨日午後12時32分44秒、あなたは夜空の呼びかけに、『私は死にたい』と答えた。なら、私が引導を渡してあげる。死にたくなければ、その剣で身を守って」
「ノ、ノアちゃん?! 何もそこまでしなくても!」
「夜空は黙ってて」
ノアちゃんが静かに言って自分の剣を抜く。
「ノアちゃん! 冒険者でもない子がそんな事できるわけないでしょ?!」
「指についているタコ」
「?」
何の話?
「その付き方は弓を扱っていた人につくもの」
「え?」
「……」
「それに魔力の流れや量が自然に生きてきた人の物じゃない。戦闘訓練を受けてるはず」
「……」
「だとしたらないんですか? 死にたいって言ってんだから、抵抗なんかするわけないじゃないですか。馬鹿なの?」
「……そう」
そう言ってノアちゃんが駆け出し、剣を振りかぶった。
「ノアちゃん!」
私は剣を抜いて止めようとするが間に合わない。
サニちゃんは目をギュッとつぶっている。
ノアちゃんが剣がサニちゃんに真っすぐむかっていく。
「……」
しかし剣の切っ先は、サニちゃんの目と鼻の先でピタリと止まっていた。
「もういい。つまらない」
ノアちゃんは木に刺さった剣を抜いた。
そして、踵を返しながら自分の剣と一緒に仕舞い、去って行ってしまった。
「なんなの、あの子は……」
「ごめんね。ノアちゃん、自分の気持ちを伝えるのがあんまり上手じゃないの。本当は伝えたいことがあったんだと思うんだけど……」
「もういいです。あなたも私にかかわらないでください」
「そんなことできるわけないでしょ。そんな顔した人を、放ってなんかおけないよ」
「あなたは……」
その時周囲でガサガサ、という音を聞いた。
「ちょっとまって……」
なんの音だろう。
今ノアちゃんが戻ってくるのは不自然だ。
かと言って、孤児院の人の可能性も低い。
孤児院に近いこの森には人を襲う魔獣は生息していないはずだ。
じゃあ、何?
「誰?! そこにいるのは?」
そういって振り返った途端、私の意識は暗闇に落ちた。
本日より今までタイトルにしていた「紅花夜空の冒険記」を現在の章に変え、小説のタイトルも変更しました。
もともとこの章が終わったら新しい小説に変えて続けてこうと思っていたのですが、せっかくならこのまま行こうかなと思いまして。わかりにくくなっていたらすみません。
明日もよろしくお願いします。




