忍び寄る影
ヒュオゥッ!!
視認できるギリギリの速度の刀をマトリ⚪︎クスの様に体を逸らして避ける。
そのままブリッジするように手を地面につけ、腕のバネを使って飛び上がる。その勢いのまま腹部を目掛け両足で蹴り上げた。
しかししずくは2振りの刀をクロスさせそれをギリギリで受けた。むしろ俺の脚を起点にしてアクロバティックに体を回転させ俺の後ろ側に降り立つ。
俺は俺で蹴りを避けられはしたものの、その勢いはそのままに起き上がっていた。霊力の危険信号に流されるまま剣を背中に回す。
カーンっ!
心臓を貫こうとするその刀をピタと止める。
「やっぱスジはいいけど、少しでもスキができた様に見えると、必殺を狙う。その癖はまだ治ってないな」
「なんの! まだまだでござる!」
しずくはもう一度地面を踏み込み、頭部を狙って刀を振るう。
それを屈んで避ける。
「ししょーこそ、ちゃんと視認できない攻撃は必要以上に大きく動いて避ける癖があるのでござるよ? 気づいていたでござるか?」
「いや、初めて気づいたよ。だけどさ」
「うわっ?!」
俺は屈みながら回転ししずくの方を向いていた。
そうしながら脚をしずくの脚を絡めとるように回転させた。
そして倒れるしずくの頭が地面に当たる前に腕を引く。と同時に、剣の切先をしずくの鼻先に突きつけた。
「今日も俺の勝ちだ」
「うー、ししょーは強すぎるのでござるよ!」
「しずく相手に手加減なんかできるわけないだろ」
むしろ超人でもないのに俺と模擬とはいえ"戦闘"ができている時点でやはり化け物だ。何度でもいうが刀の腕だけなら俺を遥かに凌ぐ。まだ勝てているのは経験の差ってとこかな。
とはいえ俺自身もしずくのおかげでかなり剣が上手くなったと思う。師匠としてそれでいいのかって話だが、こいつからは学べることが多い。
「さてと、もうこんな時間か。今日の修行はここまでにしておこう」
「うむ、承知した。拙者も腹ペコでござるよ」
いつも通りならそろそろエミがすっ飛んできて……。
ん? こちらに近づいてくる足音がいつもと違うな……。
「白さん! しずくちゃん!」
振り返ると何やら焦った様子で近づいてきた女将さんがいた。
「どうかしましたか?」
「あ、あの! エミをお見かけしませんでしたか?」
しずくと顔を見合わせる。しずくも心当たりはなさそうだ。
「いや、見てないけど」
「そ、そうですか……」
「どうかしましたか?」
女将さんは一瞬戸惑った表情を見せすぐに言葉を続けた。
「もうこんな時間までずっと帰ってきてないんです!」




