ハイカラな街で(5)
「ん?」
近くでしずくが闘気力を使ったのを感じた。
「戦闘になってるのか? もう、見つけたのか……、早いな……、ん?」
加勢に行こうと立ち上がって境内を出ようと石畳を歩いていた時、鳥居の下に人影が見えた。
それがしずくだと気付くまでにそう時間はかからなかった。
しずくはそこからものすごい勢いで駆け寄ってくる。
「? しずく? どっかで戦ってたんじゃあ……、わぷ!」
しずくは返事をすることなく俺に飛びかかり、俺の唇を塞ぎながら押し倒してきた。
すぐに唇を離す。
「はぁ……、はぁ……。ししょー? 拙者……、前からししょーのこと……」
そう言いながら着ていた道着をはだけさせる。
そして完全に両肩を露出させ煽情的に見つめてきた後、また唇を押し付けてきた。
(な、なんだ?! きゅ、急にどうしたんだ……?!)
そう混乱しているうちに今度は舌を入れられる。
まるで口の中に別の生物を飼っているかのように、口内を蹂躙される。
同時に、甘美な独特の香りが鼻をくすぐった。
(?! そ、そうか)
その香り正体に気づき、すぐにしずくの体を地面に叩きつけ上胸を踏みつけた。
「ぺっ、気分の悪い……」
口を拭いながらつぶやいた。
「ししょー! こちらの方に怪しい女性が来なかったでござるかってえええええ! せ、拙者がししょーに踏まれてる!!!?」
そしてその場に駆けつけてきた"本物"のしずくがこちらに駆け寄ってきた。
「ああ、こいつが二重者だよ。正体は……」
魂源の"消滅"を使って化けの皮を剥がす。
それは金髪で髪の短い女の子。服はかなり露出の高いものだった。
「妖淫魔だ」
本来は魔界の生物である妖淫魔。
それがなぜこんなところにいるのかわからない。が、まあそもそも、魔界の生物ってのはちょっと散歩くらいの感じで普通の世界に出てくるのもいるから、こいつもその類かもしれない。
「な、なぜわかったんだ……」
「あのなぁ……、しずくがあんなエグいキスするか」
「ええ! 拙者、ししょーと接吻してしまったのでござるか」
「だから! お前に化けたこいつとだ」
「あ、ああ、なるほど……」
はあ……、何をそんなに混乱しているんだか……。
「それに、フェロモンだよ。妖淫魔独特のフェロモン。わりぃな。俺は普通の人間より少しばかり妖淫魔に詳しいんだ」
……何せ、俺の超人としての師匠が妖淫魔だったもんだから……。
その種族にあるべき色香が全くないヒトだったが。
「あーもう! 運が悪い。そこの女は見かけによらず強いしさ! こっちは男のくせに全然魅了が効かないしよぉ! ……もしかして不能か? それともタマが……」
「どっちもちげぇよ! 超人はそう言うのに耐性があんだよ。はぁ……。しずく、こいつ縛り上げて一旦部屋まで連れてくぞ」
「え、このヒト部屋に入れるのでござるか?」
「仕方ないだろ。明日の昼、依頼主たちにあうまで生かして捕縛しとかなきゃいけないんだから」
俺だっていやだけどさ……。
「ええ! 明日の昼まで?!」
妖淫魔が声を上げる。
「ああ、そうだけど」
「じゃ、じゃあ、あんたの精気一回でいいから分けてくんねぇかな?」
「はあ? 嫌だけど」
「頼むよ。もう5日も食えてないんだよ!」
「別に妖淫魔だって、飯から栄養取れないわけじゃないだろうが」
体の基本構造はヒトと大きくは変わらなかったはずだ。
「人間だってずっと健康食やサプリだけの生活じゃあきるだろ?!」
「しるか、半日ちょっとくらい我慢しろ」
「そんな……。飯がある前でお預け喰らわされるってどんな拷問だよ」
そんな風に嘆くそいつの魔力と気力を死なない限度まで消滅させた後、ホテルに帰った。




