第4話:夢見るパンドラ(2)
今回の依頼は子どもの護送。
前にルトさんが住んでいた辺りから西南西に数日歩いた海辺に、国営の孤児院がある。
その孤児院からフラウロウに住む里親の元まで、養子となる子どもを護送する、というものだ。
今回はノアちゃんとの二人旅。こんなにも長期ノアちゃんと二人きりになるのははじめてだ。
「はい、書類は問題ありません。冒険証も事前の申請にあるものと同じですね」
孤児院に着き、養子の子の引き渡しのための書類等の確認をお願いしていた。
もしも冒険者を騙った誘拐犯にでも引き渡してしまったら大変だからね。フラウロウでの手続きも大変だった。
「本来なら今からでも養子となる子と冒険者様の顔合わせをしていただき、明日には里親の元へ出発していただくのですが……」
シルヴァンエルフで糸目女性の院長さんが浮かない顔をする。
「あれ私、何か忘れてた物とかありましたっか?!」
と、焦ってしまったのだがどうやら違ったらしい。
「あーいえ、そうではありません。その、あの子昨晩から熱を出してしまいまして……」
「え、大丈夫ですか?!」
違う意味で心配になった。
「風邪の一種だそうで、安静にしていれば問題ありませんよ。ただ治るのには5日程かかることもあるようなのです」
「そうなんですね……。じゃあ、それまでここで滞在させて頂いてもいいですか?」
「もちろんです。子どもたちも喜びますわ。夕飯後までには部屋を準備いたしますので」
正直安心していた自分がいた。
ここに着くのがあと2日早かったら、ここを発った後で病気が発症していただろう。
わたしなら軽くパニくってたと思うし助かった。
「ノアちゃん、後で白に連絡お願い」
「ん」
ノアちゃんは白とのみテレパシー通話が可能らしい。
事情を依頼主の方々に説明してもらえるよう頼んだ。
部屋を用意してもらえるまでの間院内を見て回ることにした。まずは孤児院本館を真っ直ぐ突っ切って、院庭にでる。
海風が体を包む。海岸がすぐそこにあるようだ。
そんな波音もかき消す様に、その庭は子どもたちの元気な声であふれていた。かなり大きい子もいるが、大抵は幼稚園生から小学校低学年くらいの子たちだ。
平和な光景だな、などと微笑ましく思っていたのも束の間、気づけば子どもたちに囲まれていた。
「ねーねー、お姉ちゃん誰?」
「新しい先生じゃない?」
「えー、そーは見えないけど」
「彼氏いる?」
一気に捲し立てられる。本当に元気だな……。
教育実習生とか、こんな気分だったのだろうか。
「私たちは冒険者だよ。理由があって少しの間だけここにいることになったんだ。よろしくね」
「本当?! やったぁ!」
「じゃあ、あっちで一緒に遊ぼうよ。いま、天帝様ごっこやってんだ」
「えー、それより冒険のお話が聞きたい」
「彼氏いる?」
「あはは。どっちでもいいよ。あと、彼氏はいません」
マセた子だなー。その年で気になる? ……いや、クラスに一人はいたよね、そんなやつ。
「お姉ちゃんも一緒に天帝様ごっこしようよ」
気になってノアちゃんをみると、同じように子どもにそう話しかけられていた。
ノアちゃんは普段、同じパーティである私や愛歌さんとすら全然放さないし、白以外の人間とあまり交流を持とうとしないから、嫌がっているのではないかと心配になった。
「私は何をすればいい」
でも杞憂だったらしい。
いつもの無表情から変わってる様子はないが、子どもたちと普通に会話している。
意外な一面が見れた。
明日もよろしくお願いします。




