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出来損ないの師匠をもった出来損ないが持った弟子へ

「貴様は少々、無理をしすぎだ。身に余る苦労を背負い込んでも、良いことなぞひとつも無いぞ」


 薄い桃色の髪、それに合うピンクの瞳。

 豊満なバスト、細くしなやかな腰つき、大きく張りのある臀部。

 誰もが羨むような容姿とプロポーションを持っていながら、全く色気を感じさせない人。俺が行った前の世界で師匠となってくれた人はそんな人だった。


「いいんだよ、別に。俺は……、死んだって……」


 とある戦いの後、焚火を囲んで説教を受けていた。


「確かに、我としても貴様が生きてようが死んでいようがどうだっていいがな」

「……」

「だが……」


 ―――なんで今になって、こんな記憶を思い出すのか。

 はあ、俺も割と師匠としてどうしたらいいのか、悩んでるってわけだな。相応に。


「ん、し、ししょー?」


 目の前の布団で寝ていたしずくが目を覚ました。


「ここは?」

「デモル京だ。先に帰ってきたんだよ」

「そうでござったか……。こ、この手当もししょーが?」


 包帯を巻かれた自分の体を見ながら言った。


「応急処置は俺の回復魔法。包帯を巻いたのは愛歌だ」


 回復魔法は使わなくていいのならあまり使わない方がいい。体への負担が大きいから。

 だからある程度の処置に留めておいたのだ。

 異性に包帯を巻くのは、流石に年頃の女の子は嫌がるだろうと、愛歌にやってもらったのだ。


「体の方の調子はどうだ?」

「問題ないでござる。かたじけない」


 ならよかった。


「まったく……、逃げろっていわなかったか? なんで戻ってきた?」

「……や、やはり弟子として、ししょーの手助けを、せねば、と……」


 怒っていると思ったのか、声がしどろもどろになっていく。


「はぁ……、それで死んだら元も子もないだろ?」

「別にいいのでござるよ! 最強の武士になる。そのためになら、別に死んだって……」

「まあ、そりゃあ、自分にとって意味のある死なら自分で選んで死んだっていいんだろうけどな」


 死、そのものを否定はしない。

 それは生きることの否定にもなる。


「例えば、死ぬ気でだとか、死に物狂いでだとか、死ぬほどだとか、死ぬこと以外はかすり傷だとか、そういうのは基本言葉の綾だ。もし、んなことを本気で言ってる奴がいたとしたら俺は好きになれないね。それで再起不能にでもなったら意味がないだろ」

「……」


 はぁ……、まったく……、師匠と同じことを言うことになるとはな……。


「だから、逃げるべき時には逃げろ。ただ愚直に前だけ向いてんのは、賢いとは言えない。あ、これやべぇ、と思った時には逃げる、ってぇ勇気も判断力も重要だ」

「……はい……」


 しずくは少し沈みがちに答えた。


「し、しかし、ししょーも逃げなかったではないでござるか……?」


 自分も心配したんだぞ、とでも言うように少々、むくれ気味に訊いてきた。


「俺だって、あの時はどう逃げるかしか考えてなかったよ。ま、だから、逃げられたのはお前のおかげみたいなところはあるし、そこは感謝しとくかな」

「……はい」

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