歪んだ愛情と正義のカタチ(1)
「はあー。ここが酒場……、なんかお酒の匂いがするでござるな」
「本来そういう場所だからな」
そろそろ冒険者として活動もしなければ、と思いしずくと酒場に来ていた。
ナミネとの約束の日まであと数日。その時間つぶしでもある。
問題は、この国ではまだまだ冒険者という職業の浸透が浅いこと。
依頼が来なくて困る、というほどのことではないのだが、冒険者という職業がフラエル皇国ほど社会的に守られていない。
例えば依頼に対して絶対的に達成不可能なものを受け、契約を結んでしまったとする。フラエル皇国であればその場合、冒険者の方が無駄足分の賠償を請求できる。この国では逆に契約反故とみなされこちらが賠償請求させられてしまう、というようなケースも少なくはない。
最近ではマシになってきている、という話だが、気を付けないといけないな。
「失礼、冒険者の方ですよね。依頼よろしいでしょうか」
依頼を二人で待っていたところ、40代より少し若いくらいに見える男性から声をかけられた。
「ああ、座ってくれ」
目の前の席へ座るよう促す。
「最近妻の様子がおかしいのです」
依頼主が話し始めた。それを聞いて、また浮気調査の依頼か? と身構えた。
痴情のもつれはめんどうだから、そうなら愛歌にでもぶん投げてやろうと考えていた。がそうではないらしい。
「半年ほど前、息子が行方知れずになりまして……」
……もしかして、子供の失踪事件となにか関係がある依頼なのか……?
「それから妻は塞ぎ込み、食事すらもまともに取らぬようになってしまいました」
「それは、どういったらいいかわからないが……。だが、それに関しては俺みたいな冒険者よりもカウンセラーとかに頼んだ方が……」
「違うのです。問題はここからでして」
10日ほど前から奥さんの様子がどうにもおかしくなってしまったのだという。
今までは塞ぎこんでいて家からも出なかったというのに、ある朝いなくなっていることに気が付いた。
探そうかと思った時、帰ってきたから安心したのだが、いつもと様子が違う。今までの塞ぎこみようが嘘かのようにケロッとしていたのだ。
それからは普通に生活し始め、何かのきっかけに立ち直ったのか、と思って少し安堵すらしていたのだそう。
しかし、毎朝毎晩どこかへ出かけて行ってしまう。それを不審に思った依頼主はある晩後を追いかけてみることにした。
少し歩いたのち彼女は見知らぬ小屋の中に入っていく。
窓がない小屋だったため、中の様子を見ることはできなかったが耳を澄ませてみるとどうやら、何か子守唄の様なものを歌っているようだったそうだ。
「なんだが恐ろしくて……、何か悪いものにでも憑りつかれてしまったのではないかと……」
「……」
なんだか気味が悪いが、失踪事件の後を追ってみるのは悪くない。
そう思いこの依頼を受けることにした。




