たまゆら童の笑い声(1)
「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
静かな夜の暗い部屋。しずくは恐怖と驚きを押し殺すように自らの口をふさぐ。
目の前に障子の奥では、怪しげな光と、それによって投影された歩く人影2つ。
それが早く過ぎ去ってくれるように願いながら、必死に恐怖心を押し殺していた。
それを嘲笑うかのように子供の声があたりに響き渡っている。
(な、なんでこんなことになってしまったのでござるかぁ……?!)
しずくは心の中で叫んだ。
***
…………一日前。
その日もしずくと白は修行をしていた。
「逆波!」
「?」
しずくが剣を縦に回転させながら投げる。
らしくない手だな、と思いながらそれを弾いた。
「は?」
しかし弾いたその先にすでにしずくがいて、その刀を難なくキャッチした。
そしてそのまま逆手に刀を持ち俺に斬りかかる。
もちろんそれを受け止められるのだが……。
「い、今のはなんだ……?」
稽古中だというのについうっかり、そんな声を漏らしてしまった。
「ふっふん。流石のししょーも驚いたのでござるな?」
しずくはドヤ顔でそう喜ぶ。
「ししょーは自分に型がないといっていたでござるが、実は結構決まった動きをしていることがあるのでござるよ。とはいえ拙者には真似できない所もあったでござるからな。拙者なりに改良し、型に落とし込んでみた、という形でござる。まだ試行錯誤の途中でござるが、ししょーを驚かすことができたなら及第点でござるな」
夜中起きて何かやってるとは思ったが……。
「……」
いやいやいや。
確かに今の動き何度かやった記憶はあるけどさ?
俺の場合投げた剣を霊術で引き戻せるからやってるんだ。それがしずくは出来ないはずだ。
つまり、俺が刀を弾く方向を予め予測しておき、その場所で刀をキャッチしてさらに追撃を仕掛ける。
そんな事をやってのけてしまったのだ。
「ど、どうやったんだ?」
「どうって、何となく刀が飛ばされるであろう所に行っただけでござるよ?」
末恐ろしいぞ全く……。
「おーい、2人とも!」
そんな会話をしていたらアルノが近づいてきた。
「頑張ってるね」
「まあな。どうしたんだ?」
「ほら、そろそろ依頼も受けていかないとなんでしょ?」
「そうだな」
「かといって、ずっと修行してたから依頼の伝手も無いんじゃない? 今はノアチャンも愛歌もいないんだしさ」
「はぁ……、まあそうだな」
そうノアと愛歌は俺が頼んだ別の任務に言っており、しばらくは合流しない予定なのだ。
「ってなわけでちょっと大変そうな依頼を受けたからさ、一緒にやらない?」
「わかったよ。助かる」
素直に好意を受け取っておくことにした。
正直、そろそろ仕事もしなくてはと思っていたのでタイミングがいい。
「うん。じゃあ、明日朝早くデモル京を発つから、準備しておいてね。詳細は道中話すから」
そういって、アルノは宿に戻っていった。
「らしい。じゃ、今日はここらで切り上げて準備しするか」
「うむ! 拙者の最初の任務でござるな! ワクワクしてきたでござるよ!」
そんな風にしずくは楽しそうにしていた。




