雲上での修行(1)
パチパチパチパチ……。
目が覚めると囲炉裏の火の音が聞こえた。
夜通し、というか一日中ずっと消さないでいるんだけど、セオリさんの魔法により火事や一酸化炭素中毒などは起こらないようになっている。
今私の修行のために、年中雪が積もる雲の上の山にいるからね。これくらいのことしておかないと、最悪凍死だよ。
スーッと規則正しく寝息を立てているセオリさんを横目に起き上がり水を一杯飲んだ。
そして外に出る。
「ぅぅぅ、さっむ……」
雲海を見下ろす。観光で着ているのであれば絶景だろうが、もう数日も過ごしていれば見慣れた光景になってきてしまった。
指先をこすり合わせながら、気力と魔術で二重に体を防護し手桶を手に取った。
そして、目の前の崖に身を投げ出し下へ飛び降りる。
「鬼月流:影浮足」
落下地点の森に影の膜を作り出し、着地の衝撃を分散させ、ふわっと静かに着地できる。
弱点は影のない場所には使えないこと。
平原ですら草の影が地面に降りていたりするものだけど、その程度の小さな陰では高さによっては衝撃を消しきれない。
荒野などではほとんど不可能。
森を少し歩き川へ出た。湧き水が出てすぐのところで、直接飲んでも問題ない所だ。それを手桶で掬う。手桶にも魔法が掛けられていて、見た目よりも量が入る。一日分には十分事足りる。
軽く顔を洗うと刺すような冷たさが目を強制的に覚まさせた。
その後さっき降りてきた崖下に戻ってきた。
「鬼月流:天浮足」
術を使うと服と髪がまるで無重力空間にいるかのようにふわりと宙を漂い始める。
そしてそのまま崖を登り始めた。
この技は重力をなくす、というよりも、使用中"重力に自分を忘れさせる"、もっとわかりやすく言うなら、"重力の盲点に入る"ことで重力の影響を減らすことで、上下の移動が楽になるといった具合だ。おかげで水もあまり零さずに済む。
また寒い頂上に上がってきて、家の中に入った。セオリさんを起こさないようにやかんに水を移し、囲炉裏につるした。
いくら綺麗な湧き水だといっても、一応沸かしておかないとね。これもまた沸騰したら勝手に火から遠ざけられるようになっている。
一応ここまでの朝のルーティンは私が習っている鬼月流、その根底となっている昏明術を自然と扱えるようになるための修行、らしい。
モーニングルーティンを終えたら外に出て1時間の瞑想、そして簡単な準備運動。
その後ようやく刀を構える。とは言っても木の人形相手だけど。
「ふーーーーっ。ふっ!」
午前中はずっといくつかの型を人形相手に練習していく……。




