魂の共鳴
(なんでござる?! なんなんでござるかあれは!)
少女は1人森の中を走り"それ"から逃げていた。
町で薬を受け取り森を抜け帰っている途中、何者かに襲われた。何とかその場は逃げだしたものの、隠れては見つかり、隠れては見つかりという地獄の鬼ごっこを続けていた。
男であるか女であるか、背格好、声、それすらも認識が困難なその仮面の人物に戦いを挑むのはあまりにも無謀である、と本能が叫んでいた。故に彼女は逃げることしかできなかった。
(?!)
しかし、いやな予感がして木刀を構えつつ振り返ると、ずん、という重さを感じながら体が地面に倒れる。
何の武器かはわからないがその攻撃を受け止めたが、力を殺しきれず倒れこんでしまったらしい。
(つ、強い……!)
メキメキメキと木刀が悲鳴を上げる。
もってあと一分。いやその前に、自身の筋力がそこまでもたない。
そう考えた少女は相手の腹部を蹴り上げる。
「ぐっ……」
予想外の抵抗を見せた少女に驚いたそいつは一度飛び退いた。
「ガキにしてはやるじゃねえか。これだけ俺から逃げ回るなんてさ!」
余裕を感じるその声に褒められた気がしなかった。
「はぁ……、はぁ……。そんな事はどうだっていいのでござるが、なぜ拙者をそこまで着け狙う?」
「別にお前が欲しいんじゃなくて、子どもならだれでもいいんだけどな。ん?」
ザッザッザッザッザッ。
近くで別の足音が聞こえた。そして。
カーンっ!
武器と武器がぶつかる音が聞こえた。
そして、数合武器をぶつけ合った。
(すごい。綺麗な剣筋でござる……)
少女は飛び出してきたその男の剣に魅了されていた。
「ちぃ。時間切れか」
そういって少女を追いかけていたそいつは姿を消した。
*
音がしたその場所まで着くと、2人の人影があった。
少し戦闘をした後に、すぐ姿を消してしまった。
片方は仮面をつけていて、上手くその姿かたちを捉えられなかった。
(ん? この香りどこかで……)
その残り香に何か覚えがある気がしたのだが、やはり認識が阻害されて上手く思い出すことができない。
(ノアと愛歌の言ってたやつかな? こんなとこにも出てくるってことは……)
もしかして、デモル京内に住み着いてるやつって推理は間違いかもしれない可能性も出てきたな、と考えもしてしまった。
「いや、今はそれどころじゃないな」
もう一人の方に向き直る。
「あー、あんたがしずくか?」
「えーっとそうでござるが……、今日はやけに知らぬ御仁に話しかけられる日でござるな……」
「ござる? あー、まあいいや。そう警戒するな。あんたの母親のうみって人に頼まれてあんたを探しに来たんだ」
腕っぷしが強いって聞いてたから、学年に1人はいる男勝りなタイプの女子を想像していたが、案外華奢だ。クラスで3~4番目くらいに人気になりそうな感じの、素朴な可愛いさがある女の子だった。
つまり……。
(無意識に気力を使いこなしているタイプか。……一種の天才かもな)
そんな事をかんがえると同時に。
(なんか、こいつは初めてあった気がしないな)
俺の師匠曰く、自身と似た魂源を持つものに会うと魂源が共鳴することがあると言っていたことを思い出した。
きっとセオリも夜空に似た何かを感じていたのだろう。
「なんと母上に! これは失礼した」
「いやいいんだ。で、薬は手に入ってるのか?」
「そこまで事情をご存じでござったか。もちろん、そちらの方は問題なく手に入れたでござるよ」
不思議な話し方をする子だな。
「ならよかった。まださっきの奴や、その仲間がうろついている可能性もある。さっさと森を出よう」
「ちょっと待ってよー!」
アルノが走って追いついてきた。
「お仲間でござるか?」
「ああ」
「はあ、もう。おいていかないでよ」
「仕方ないだろ? お前に合わせてたらこいつを助けられなかった」
「あ、見つかったんだね。よかった」
アルノが体力を取り戻すのを待ってから俺たちは森から出た。




