15日いただけますか
ナミネに頼みたかったことは敵の基地を探るのに必要になるものの調査だ。
やつらはこの大陸のどこかに隠れ住んでいる。そのためには同じ場所に留まり続けるとは考えづらい。
そして居場所、もしくはいた場所には何かしらの異常も残しているだろう。それはこの国の人間では感知しきれない微弱な物である可能性が高い。
それを各地の役人に調査してもらって、大体の位置を特定できないかと思ったんだ。
「セオリがしばらくこの街を空けちゃってるだろ? あの人に頼むこともできない。もちろん俺たちも独自には動くが、この国の人間じゃないから情報が足らないんだ」
「なるほど……」
ナミネは一度何かを考えるように、お茶を口にした。
「少し……、そうですね、他でもない白様からのご相談です。私もできうる限りのことをしてみましょう。ただし、着手するまでに15日ほどいただけますか?」
「15日?」
「はい。知っての通り私は最高位役人。権力もそれなりにあります。ですが新参者であることには変わりがありません。端的に言うなら貴方の要望に答えることができるだけの人脈が足りないのです」
「ほう」
「ですが、15日あれば、ある程度の根回しもできるでしょう。いえ、やってみせますよ」
16歳の子供だと思って舐めてた。普段とは違う大人な物言いだった。いつでも頼れ、なんていうだけある。
正直、俺より大人かもしれない。流石エリートだ。信頼できる。
「んじゃ、そっちは頼んだ」
「ええ。15日にまた進捗をお話しいたしますわ。ぜひいらしてください」
「わかった」
それから少しの間ナミネの話に付き合った後、その家を後にした。
「おかえりなさいお兄ちゃん! ナミネさんとの逢瀬って聞いたけどどうでした?!」
宿に帰るとエミがトコトコと駆けて来ながらそう話しかけてきた。
「ただの相談だよ。逢瀬でも逢引でもない」
「えー、そうなんですか? だって、今さっき愛歌さんが逢瀬って言ってたんですよ」
あいつ……。
「ああいう頭がいい奴ってのは嘘つくのも上手いから気を付けないとダメだぞ?」
靴を下駄箱にしまったあと、頭を撫でてやりながらそう言った。
「えへへ、そうなのー? お兄ちゃんはぁ?」
「俺は馬鹿だから嘘はつけないよ」
「そっかぁ」
廊下を歩いて自分の部屋に向かう。
「でもいい人だから私は好きだよ」
そうしていたらトコトコとついてきたエミがそう言った。
「はいはい。ありがとな」
なんだか催促しているようだったから、もう一度頭を撫でる。
えへへ、と笑っていた。小動物みたいだ。なぜかわからないがこの子には懐かれている。
「私ねずっとお兄ちゃんが欲しかったの。白さんはお兄さんって感じするからなんだか嬉しいんだ」
「初めて言われたよ」
「えー、そうなの? 兄弟は?」
「兄貴が一人」
「末っ子なの? 見えない!」
「ああ、一人っ子に見えるってよく言われるよ」
「そうじゃなくて! 長男にみえるって私は思ったの!」
「それも初めて言われた」
「そっかぁ。ねーねー、妹欲しいって思ったことある?」
「無いことはないかな」
そういうと、妹がいる人からはないものねだりだとか、言われたりするけど。
「じゃあ、私が妹になるね! お兄ちゃんって呼んでいい?」
「さっきからどさくさに紛れて呼んでただろ」
「えへへ、バレてた? ダメかな?」
「勝手にしろ」
「じゃあやっぱり、お兄ちゃんって呼ぶね!」
なんだか体が痒かったけど、悪い気はしなかった。
なんか昔から年下には弱いんだよな……。




