第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(3)
「なんていうか、寂しくなっちゃうな」
あぜ道を歩きながら呟いた。
「日本にもきっと、似たところが沢山あると思うよ」
それに白が返す。
依頼受注から5日後、私たち二人はソラ・トレントットが晩年住んでいた場所にやってきた。
かなり山奥の村なので人が住まなくなって、15年ほど前にそのまま捨てられてしまったのだ。
田畑跡が道の脇にならぶ。
この辺りは亜熱帯で、少し床の高くなった風通しの良い家が多い。
「そっか……」
しばらく歩きその最奥、ソラさんの家だった場所に着いた。
「本当にここ?」
「戸籍上はそうみたいだな」
「でもさ、人が二人も住んでいたようには見えないよ」
中の荒れた様子が、時の流れを感じさせる。
広さは少し大きめのマンションの一室くらい。残されていた小さなベッドは一台。
二人住むには少し狭いくらいの家だ。
「ソラは生涯独身だったんだろ? 手紙の相手に会えない事情があったからあれを遺したんだろうし」
「あ、そうか。でも余計にわかんなくなっちゃうな。多少なりとも名を挙げた冒険者ならもっといい場所に住めたよね」
「なんでこんな場所に住んだのか。それが案外答えかもな」
ふーん?
「ルトってエルフの記録も何故かほとんど残されていないからな。ここに何かヒントがあることを願おう」
冒険者は大抵任意のクエスト仲介店に登録をし、その上でクエストの報告も行う。その記録から、2人が一時的にパーティを組んでいた時期があるという事は分かっている。
ただ問題なのは二人はしっかりとした記録があまり残っていないってとこ。
それは暗黒期に多くの文献や情報が消失してしまっていたことと、冒険者黎明期は仲介店の情報管理の方法も少々ずさんだったことに起因する。むしろルトさんに行き当たったことは
「2人についてわかっていることは、ルトが40年前に失踪したこと、と」
これは当時に起こっていた連続英雄失踪事件の被害に遭ったものではないか、とされている。
「ソラは35年前に冒険者を引退し、この場所に住み始めた。そして20年前に手紙を残して亡くなったことだ」
白が改めて纏める。
「そうだね」
「わからないことは約束を破った理由とここに移り住んだ理由。再開の約束を破った理由。そしてルトの行方か。とりあえず調べ始めよう」
それから夕暮れまで荒れに荒れたソラさんの家や他の廃屋を調べた。
しかし、目ぼしい情報は特になかった。
「ね、白」
「ん?」
「やっぱり私、ここに住んだ理由が気になってさ。調べてる間に思ったんだけど」
「うん」
「この村の近くにルトさんがいたんじゃないかな」
「俺もその線は考えたよ。でも……」
「だとしたら同棲しなかった理由も、再会しなかった理由もわからないっていうんでしょ? そうだけどなんていうか、この辺りにいるんじゃないかって気がするんだよね」
女の勘なんて言ったって信ぴょう性に欠けることはわかってるけど、やっぱりそんな気がするんだ。
「わかった。明るくなったら周囲の山を探索してみよう」
私たちはテントを張り、一泊することにした。
―――世利長愛歌の記憶領域:file.3【冒険者】―――
これを読んでくれてる人には馴染み深いであろうあの職業。人からの色々な依頼をこなすいわば便利屋。
この世界にはギルドみたいなものは存在していない。
酒場が依頼者と冒険者との交流の場となっていて、そこで依頼内容や報酬を直接交渉する。
仲介店という物は存在していて、依頼者と冒険者が色々と便利に使っている。
また明日も読みに来ていただけたら嬉しいです。