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街灯下のプロポーズ

「私なんか、まだ、未熟で……」


 それは私の声だった。しかし、意図して発されたものではない。

 なんだか自分の視界も聴覚も映画を見ているように遠くに感じられた。

 その上で私に体重を預けられているのを感じる。

 視界がぼやけていた。私は……、泣いている?


「そんな事ありませんよ。私が教えられることは全て教えました。後は磨くだけです」


 自分に寄りかかってきていたのはセオリさんだった。


「そんな……」


 またしても自身の意志とは別に声が聞こえる。


「こうなる気はしていたのです。どれだけ未来を見てもこれより先はいつも暗闇に包まれていましたから」


 セオリさんの肩越しに自身の手をみる。

 その手はべっとりと血が付いていた。

 そこで私は目を覚ます。




「はぁ、はぁ……」


 お風呂に入ってすぐ、長旅の疲れからかすぐ寝てしまった。

 久しぶりのお布団ってこともあって、ゆっくり眠れた……、はずだったのだが、眠って2時間くらいが経って目が覚めてしまったみたいだ。


「今のは……、夢……?」


 それは夢というには少し……。そう前に火山の中で契約の石を探していた時に近い、リアルさだったような。


「はあ夢とはいえ、今日あったばかりの人を殺すなんて私も趣味が悪いな」


 もう一度眠りに就こうとしたんだけど、目を閉じても先ほどの夢が脳裏をよぎってなかなか眠れなかった。しかたなくからだを起こす。


「え?」

「すぅーー。すぅーー」


 気持ちよさそうに寝息を立てるアルノ。その他には誰もいなくなっていた。隣のノアちゃんの布団に手を入れる。

 ひんやりとした布団の感触がした。


「この感じはだいぶ前にいなくなってるね……」


 私も少し夜風に当たってこようかな……。

 そう思って、外に出た。

 和服のいい所はそのまま出てもそんなに変じゃないところだよね。


 カタ、カタ、カタ……。借りた下駄が夜道に響く。

 昼あんなにも賑わっていたこの街も夜には静まり返っていた。


「都会なのに空気が美味しいな」


 川山々に囲まれただだっ広い盆地に作られた町らしくて、自然も豊かな立地なんだ。

 フラウロウも思い出す、居心地がいい所だなと思った。

 

 タッタッタッタッタ……。

 前から男性が歩いてくるのが見えた。顔は暗くて見えないけど黒い和装をした男性だった。

 モダンな街灯の下ですれ違ってすぐその時の事だった。


「失礼、そちらのご婦人」


 すれ違った男性に後ろから話しかけられた。


「えーっと、どうかしましたか?」


 その人は眼鏡をした真面目そうな男性で、棋士とかに居そうだなとなどと思った。

 その男の人が私のすぐそばまで来る。その場で跪いて、私の手を取った。紳士的な動きだ。

 な、ナンパかな……。しつこかったらぶっ飛ばしてでも……。


「落つる雷鳴この心

 君の瞳に落ちてゆきて

 かつて出逢うた美女百人も

 今では木の葉と落ちるが如し」

「あー。えっと?」


 詩? あーこの国では挨拶に詩を詠むんだったっけ?

 こんなすれ違った時ですらもそんな風にするの?


「失礼、外国の方とお見受けしました。単刀直入申し上げます。一目惚れしました。もし宜しければ、私と結婚していただけませんか」

「……………………ふぇっ?」


 その直接的すぎる言葉に頭が追い付かず、ついそんな間の抜けた声を出してしまった。

 ナンパどころの騒ぎじゃない。……これって、いきなりプロポーズ?!


「えええええええええええええっ!!?」


 そこまで気づいた時、夜中にもかかわらず、大きな声でそう叫んでしまった。


「ちょちょちょ、え?! ままままま待ってください! え? い、意味がよく……」

「そうですよね。名も名乗らず失礼いたしました」


 い、いや、そういう問題じゃないんだけどっ?!


「私は紫階位の役人、セキヤミと申します」

「あ、ご丁寧にどうもー。冒険者やってる夜空っていいますー、って! そうじゃなくてですねっ!」

 

 む、紫階位ってもしかしてナミネちゃんの同僚……?!

 この人もすごい人なのかな……。


「わ、私、まだ結婚とか考えてないですし!」


 いや、そこじゃないでしょ?! っと自分でツッコむ。


「では、結婚を前提にお付き合いなど……」

「いや、いやいや。まだあなたのこと名前と仕事しか知らないですし……」


 そう目を泳がせながら周りを見ると、その視界の先に一番今の状況を見られたくない人が入ってきた。


「は、白……?!」


 白は不可解そうな目でこちらを見ていた。

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