意識の混線
「………誰?」
ここにいないはずなのに、なぜか目の前にいる白。
そして白と親しげに話をする男女。
男性の方は白より少し背が高く男性にしては長い髪を持ってて、野性味が強い印象だ。
女性の方はノアちゃんより一回り大きめのくらい。言い方ああれだけど、割と小柄ってことね。深い青のロングヘアを低い位置で二つ結びにしている。
(いや、誰って……)
「キーセルとヴィナか……」
「ああ、そうだけど」
「なぁに? 本当に寝ぼけてんの?」
「いやあ、えっとごめん」
なぜか私の口からも初対面であるはずの人に友達に対するような言葉遣いがでてきた。
(いや、っていうか、なんで私2人の名前がわかるの?)
(なんでってそりゃあ、仲間だからでしょ?)
(何の話? 本当に知らないんだけど)
頭の中にまるで2人の自分がいるかのようにうるさく会話する。
「おーい」
そんな事に気を取られ、気づかぬうちに目の前に来ていた青髪の女の子が私の様子を目の前で観察するように見ていた。
「なにぼーっとしてるの?」
「い、いやなんでもない。ごめん」
「はぁ、弟子がこんなんだと心配だわぁ……」
(……弟子?)
(そうでしょ? 戦闘の基礎は白、剣はノアちゃん、魔法はヴィナに教えてもらったんじゃん)
(……そうだったっけ?)
またしても脳内で自分同士が会話する。
「気のせいじゃない」
「へ?」
またしても気づいたらそこにいたノアちゃんが言った。
「夜空は今、本当に二人が誰かわかっていなかった」
「?」
あ、ノアちゃんの共鳴……。それで私状態を……。
「記憶障害みたいなことか?」
「ううん。大したことじゃない。放っておけば治る」
ノアちゃんがいいきった。
「ならいいけど……。夜空、どうする? 今日は休んでおくか?」
「大丈夫、体調自体は悪くないんだよね。ただ一応、愛歌に脳と身体を調べてもらえると安心なんだけど」
(愛歌って誰?)
こんどは心の声がそんな声を漏らした。
そして同時に。
「え?」
白も怪訝な顔をした。
「え、なに?」
「なんで……、夜空が愛歌の事知ってるんだ?」
「へ?」
そりゃあだって……。
「夜空こっちきて」
そうノアちゃんに手を引かれ、皆とは少し離れたところに連れていかれた。
「あなたは今、……言ってしまうなら、意識の混線を起こしてる」
「意識の混線?」
「そう。あなたの根源である"座標"がズレてどこかと繋がった。そんなところだと思う」
あーえっとどういうこと……?
「とりあえず、どこまで認識が同じかわからないけど、私の事はわかるんでしょ?」
「うん」
「あの2人は白が前に行った世界から私と同じように着いてきた2人。あと、愛歌は死んだ」
「え?!」
2人の境遇を訊いてなるほどなぁ、とか思ってたら、急に後頭部を強く殴られたみたいな衝撃的な事を言われて混乱した。
「この世界に来る一年前の夏、病気で死んだ」
「それはわかってるけど……」
愛歌は一度病死して、その後自信をAIに変えて電子世界で生きていた。それが世界を渡るときに霊力のバグを引き起こして今のあの状態になったんだった。
自身のAI化が成功していなければ、そのままだったはずってことは……。
「なるほど。わかった」
「とりあえず、しばらくは話を適当に合わせておいて」
「了解……」
何が何だかわからないけど、ノアちゃんが変わらず心強くて安心だ。




