不正疑惑
『プレイヤー1、シンボルフラッシュ。プレイヤー2、パーフェクトバランス。よってこのラウンドはプレイヤー2の勝利』
機械音声が告げた。
「やっ、やった……!」
「夜空チャン! やったじゃん! 勝ったよ! 勝ったんだよ!」
ウソ、本当に勝ったの……?
『プレイヤー1、スタックが無くなりました。よってプレイヤー2の勝利』
その疑問に答えてくれるように、機械音声が私の勝利を告げる。
「な……、に……?」
相手の男性はお手本のように動揺している。
『契約に従い100万フル分のチップをプレイヤー1の光環チップから、プレイヤー2の光環チップに送信します』
「! ま、まてっ!」
男性が急いで光環チップを掴み上げたが、すでに遅く私の方に移されていた。
「イカサマだ!」
「はぁ?!」
「不正スキャンをしろ!」
『承知いたしました。不正スキャンプロトコルを起動します』
さっきまでプレイをしていた台が何かを始めた。
「ちょっとぉ! 負け惜しみは止めてよね! なんだって私がイカサマなんて!」
『スキャン完了。不正は確認できませんでした』
「ほらぁ!」
「お前ら! 何を細工した!」
なんでまだ疑うかなぁ。
「お前が最後に手にした黄▲のカード、あれは俺が直前に捨てたものだ。クロノスペクトルはそのラウンドで捨てたカードは他のプレイヤーの手には渡らない。普通はならな」
「あんたの勘違いでしょ? いらないカードだったからちゃんと覚えてなかったんじゃないの?」
「いや、確実に黄▲だった。おい、見たよな?」
後ろでみていた人に訊いた。
ぶんぶんと頭を振っている。本当に見たのか、それとも気おされてるのかわかんないな。
「ボクたちはなんもしらないよ!」
「ならば不具合だ! 納得いかん! 100万フルを返せ!」
グリッチっていいたいわけ?
「なんでよ! ここは運が試される場所なんでしょ?! 運が悪かったと思えば?」
「ち!」
舌打ちしながら、何かのボタンを押す。
すると警報が響き渡った。
「なにしたの?!」
「私のようなVIPはこのカジノ内で衛兵を呼ぶ権利があるのだ」
遠くの階段上から衛兵ロボットが6体こちらに向かってきているのが見えた。
枷さえなければ問題ないけど、今は銃一発で致命傷だ。
「まったくもう……」
ため息を吐きながら光環チップをアルノに手渡した。
「え?」
「アルノはこの中のチップを換金してきて。私たちはここで暴れて気を引いておくからさ」
「だ、大丈夫?」
「どうかな。わかんないけど」
「心配なら早く換金してきて」
ノアちゃんもそういった。
「わ、わかった」
アルノが走って人混みの中に消えた。
「さてと、ノアちゃん」
「ん?」
「私たちって枷かけられた上で、どこまで戦えるのかな」
魔術も霊術も無しの完全な徒手空拳での戦闘は、多分初めてだと思う。
「そこらの人間なら殺れると思うよ」
「そりゃ頼もしいや」
なんて話しているうちに衛兵ロボットたちがすぐ近くにやってきてしまった。




