フードの人物
「両手を上げ動くな」
ため息をつき、両手を上げながら後ろに振り返りながら話す。
「あのさぁ。こういう時よく動くなって言うけどさ、その度こっちもいちいち律義に従ってたらきりないと思わないか?」
「黙れ。動くなと言っている」
十名弱の兵士が銃口を俺に向けていた。
「動くなって何処まで? 心臓や内臓の働きも? 血液の流れや脳細胞のやり取りも止めろっての?」
「……そ、それはいい。我々に見えている体は動かすな」
とのことなので、仮面の中から眼球を動かした。
目で一人一人を追って、標準を定めていく。
「じゃあ、瞬きは?」
「それは我々には見えていないだろう」
「あ、そっか」
「いいから黙れ」
HUDにエイムが合わさったことを意味するマークが、一つ一つ表示されていく。
それが全員に置かれた。
「じゃあ、最後に一つだけ聞いてもいいかな?」
「なんだ」
めんどくさそうに返事をする。
「俺が身に纏ってる服の機能が作動したら、それって俺が動いたことになる?」
「服の機能?」
「そう。例えばこんな風に」
そう言って瞬きでそれを起動する。
すると人数分の超小型ミサイル型スタンガンが腕から発射されていく。
目の前にいた兵士が全員倒れ静かになった。
「……えーっと。もう動いていいかな?」
あーあ、困った。返事がないと一生瞬きしかできない人間になっちゃうな。
なんて心で思っていたら、奥の廊下から、コツコツ、と歩いてくる音とともに声が聞こえた。
「迷い込んだネズミ探してみれば、内の兵士たちはネズミ以下の羽虫だったというところですか。やれやれ、檻の中で静かにしていればいいものを。飼育員に敵対する用であれば、射殺処分しか道はありませんよ?」
それはあの夜空たちと逃げ出していた夜にあったフードの奴だった。
両手で槍をひょいひょいと華麗に回しながら近づいてくる。
他の兵士とは違う、こいつはヤバい、と凍り付くような空気感で瞬時に判断する。
手を抜いて勝てる相手じゃないと悟り、ヒーロースーツを解いた。
よくよく探らないとわからないが、かなりの殺気を持っているようだ。
「すごい殺気だだけどなんかあった? 夫婦喧嘩?」
しゃべりながら剣を抜く。
「そう言うあなたも。かなり実力があるのが立ち振る舞いからわかりますよ。ただ、動きは素朴。我流ってところですか」
「師は居るんだけどな。俺には自由なのが性にあってるんだ。型にはまるのは苦手でね」
「そうですか。息子を思い出しますね」
息子? ってことは結構歳いってるのか?
仙人みたいな奴だったりして。
フードに認識阻害の魔法が掛けられているらしく、性別年齢などがうまく感じ取れない。
「そうか? じゃあ、見逃してくれてもいいんだぞ?」
ヤバいな。
愛歌が戻ってこない。
話しかけてるんだけど、何かに夢中になってるんだろう。
集中すると周りをシャットアウトしちゃうタイプだからな。
仕方ない。この場は自分で何とかするしかなさそうだ。




