第2話:砂漠に咲く薔薇が見たくて(8)
「さてと、あとはお前だけだな……」
そういって、月の倒れていたところに向き直った。
「……あの……、白さん?」
「なんだ?」
二人が話している間私は月の事を警戒し体を調べてみていたんだけど……。
「首がぽっきり折れて死んでるよ」
「あれ、いつの間に」
いや、わかってて言ったよね?!
「ま、いいか。夜空、立てるか?」
「うん、ちょっと休んで回復した」
話しながら立ち上がる。
その時だった。
「ん? 何これ?」
地鳴りのような音が響きながら地面が少し揺れていた。
なんていうか日本人の悪いとこなんだけど、このくらいの揺れだと何とも感じていない自分が怖かった。
「あー、俺が柱一個ぶち抜いちゃったからかな? この石室が崩れそうなのかも」
「何してるのっ?!」
「仕方ないだろ! 他に夜空を助ける方法が思いつかなかったんだから」
「それはどうもありがとさん!」
私たちは人質立ちを探し出し、急いでその遺跡跡から出ていった。
……数日後。
私たちはフラウロウの地下にある、フラエル皇国の軍事研究所に特別な許可を得て来ていた。
「悪いなこんな方法しかなくて」
「いいんです。ありがとう」
星ちゃんが、長期睡眠装置に拘束され寝かされていた。
星ちゃんを縛っている呪いは、本人の血肉まで蝕んでしまっていて、そう簡単に解呪できるものではなくなってしまっていた。
そのため星ちゃんへの命令権を持つものをこの世界から追い出さない限り、星ちゃんは望まない形で殺しや犯罪を強制させられてしまうかもしれない。
そこでシーラさんに事情を説明したら、フラエル皇国のお偉いさんに取り次いでもらえた。
ここは警備が厳重な国営の研究所。死神の札とかいう連中も侵入は簡単ではないはず。
そこで星ちゃんは長期睡眠装置を使い、しばらくの間眠りにつくことになったんだ。
「次目が覚めた時には、お兄さんみたいにあなたを縛る人がいなくなるように、私たちも頑張るからね」
「そうですね……」
星ちゃんは微妙な表情をした。
「兄様は、私たちがこうなる前、すごく優しかったんです。私が絵本で見た砂漠に咲く薔薇を見たいっていったら、一緒に探してくれたくらい。結局遭難しちゃってご覧のあり様ですけど」
そういって苦笑する。
「権力財力戦闘力……、なんだっていいけど、人ってのは大抵、"力"ってついた何かを手に入れると、どこかから壊れはじめて粗大ゴミと化するもんだよ。お前みたいに純粋さを失わないやつは特別だ」
「そっか。ありがとう、白お兄ちゃん」
星ちゃんは儚げに笑う。
「あ、そうだ、最後に一つ確認したいことがあるんだけど」
白が装置のスイッチを押すのを止めた。
「なに?」
「お前らって、疑似超人なんだよな?」
「うん、そうだよ」
「わかった、ありがとう」
白はそれで満足したようだ。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ、またね」
寝ていた装置の蓋が締まり、長い長い夢の中へと落ちていった。
星ちゃんの願う、普通の生活が手に入るその日まで。
明日もよろしくお願いします。




