賞金稼ぎフェイサート
船からそいつが降りてくる。
フルアーマーの人で、容姿はおろか性別も判断できなかった。
ホルスターの様なものにいくつか武器が入っているが、今手にしているのはスナイパーライフルの様な長い武器だ。あれで近接戦を行うつもりだろうか。
「いい度胸してんじゃん。降りてくるなんてさ」
「船を壊されてはたまらんからな」
つけている兜に反響していて少し聞きにくかった。
兜に変声機とかついてなければ多分男性の声だと思う。
「でもそれが、あなたの失敗」
そう言ってノアちゃんが突撃し切りかかる。
しかし……。
「?!」
ノアちゃんの剣と体がフェイサートをすり抜ける。
後ろにすり抜けて行ったノアちゃんの方にフェイサートは振り返り、腕から何か金属の塊のようなものを飛ばした。それに体を拘束される。あれ程度の高速ならノアちゃんなら外せるのではと思ったのだが。
「っ、これ死神の枷……?!」
「まずは一人確保だ」
「の、ノアちゃんが……」
あんなに簡単に無力化されてしまうなんて……。
「アルノ! あれは何!?」
「あれは多分クオンタム・シフトが搭載されてるんだと思う」
「え、何それ」
「あーえっと、ボクも物理学とか量子力学には明るくないんだけど」
なんで急にそんな難しい話に……。
「簡単に言うと、アーマーと装着者の密度を瞬間的に操作できる……、んだったと思う」
あ、だからすり抜けて……。
「そんなの! 無敵じゃん!」
「そんな事を可能にするにはいくらか制約があるはずだから、完全に無敵ってわけでもないはず」
はあ……、ったく。とにかく、私たちだけでなんとかしないと。
「火属性:炎獅子!」
火の獅子を生み出し突撃させる。
着弾直前で魔術を吸い込む装置か何かで、吸い取られてしまった。
すぐにフェイサートの足元から風を発生させ、竜巻の様な風の壁でフェイサートを包む。
フェイサートの足元を起動点にしているから、鎧の効果ですり抜けようとしても、
「アルノ!」
「うん!」
そうしてフェイサートの目を盗んでいる間にノアちゃんを連れて私の後ろに帰ってくる。
「できるだけ持続させるから急いで逃げよう!」
そういって、そこからできるだけ離れようと走り始める。
ドン!
「っ!」
走っていると一瞬鳥肌が全身に立った。
なんだと思ったと同時に、大きな音が鳴り、左ふくらはぎに激痛が走った。
「だ、大丈夫?!」
「う、うん! いっ!」
何をされた?
と思って後ろを振り返ると、私が痛みで解いてしまった魔術の中から、スナイパーライフルを構えたフェイサートが現れた。
「な、なんであの状態から私に当てられたの?!」
「失念してた。サーマルスコープならあの中からも私たちを感知できるし、フォトンバレットや補正能力を持ったライフルなら風の中も当てられる……」
私を肩で担ぎながら、アルノが考察する。
フェイサートは余裕そうにこちらに歩いてきた。
どうする……? このままじゃ捕まる……。
「まてぃ!」
その緊張状態を壊すように声が響いた。
「そいつらは我、バレットレッドの獲物だ。そこまでにしてもらおうか」
そこにはあの城を抜け出す時にいた奴の一人がいた。
「何言っているのかわからないが、ここまで追い詰めたのは俺だ。奪うというなら貴様は殺してゆくぞ」
「望むところ!」
そういって、2人は戦闘を始めた。
「あー、えっと、何が何だかわからないけど、今の内に逃げよう!」
「うん!」
すぐに隠れて傷を治し、できるだけ遠くに逃げた。




