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大樹の上で(前編)

「私のせいだ……」


 ずっと抱えていたものを白に漏らす。


「はぁ?」


 白は何言ってんだこいつ、といったように、そう言った。


「私がロンさんのとこに行く、なんて言わなければ、ロンさんが死ぬこともなくて、敵の軍勢の準備も整う前にその作戦に気づけて、こっちも準備をする時間があったかもしれない」

「それは結果論でしかないだろ?」

「結果論でも何でも、その可能性はあった! 私がこんなバカじゃなけりゃ! 被害も抑えられたかもしれない……!」


 ……。

 そんなことを、戦っている最中からずっと考え続けてしまうのだ。


「……俺はさ」


 少し考えたのち白が話始める。


「俺はさ、昔から、いじめられる方も悪い、だとか、騙される方も悪い、みたいな言葉があまり好きじゃない」

「……?」


 何の話?


「まあ、そりゃあ、いじめられる側や騙される側に原因がないかって話ならその限りでもないとは思ってるけどな。でも、いい事はいい、悪い事は悪いだろ。原因はどうあれ、それをするのはするほうの問題だ、って俺は思う」

「……」

「今回のもそうだ。確かに、俺らがロンのとこに行っていなけりゃロンは殺されなかっただろう。もしかしたら、先の戦いの規模ももっと抑えられたかもしれない。でもさ、それらは俺らが悪いんじゃーなくて、ロンを殺したグリンや、この町に魔獣の軍勢を送りつけたライグや、町の人間を殺しまくったトリカ……、そういうやつらが悪いんじゃあないのか?」

「わかってるよ!」


 大きい声を出してしまった。


「ごめん、白に当たったって意味ないのに。でも考えちゃうんだ。私に力があれば、もっと被害を減らせたんじゃないか……、私がバカじゃなきゃ、もっと何か変わったんじゃないかって」

「力でどうにでもなるなら、あいつらは死んでないよ」


 白が私の言葉を受けてそう呟いた。


「え?」


 白の言うあいつら、は私の思い浮かべたのとはなんだか違うものな気がした。


「いや、なんでもない。でもさ、人として生きるってのは本当に大変だよな」

「なに? 急にわざとらしく、格好つけて」

「こんな時くらいいいだろ」


 ……。


「どんな選択をしたって後悔するようにできてんのに、いつだってなんもしてなくたって、選択を迫られる。しかも超人としてってなりゃ、自分のためじゃなく、誰かのためにその選択をしなきゃいけない。そりゃ疲れるよ」

「……白はどうなの?」

「俺? 俺は使い分けてるよ」

「何を?」

「超人としての自分と人間としての自分と。超人の役目はこの世界滅びの運命から救う事だ。その点でいえば今回は、敵の組織(かたち)がおぼろげながら見えてきた。狙いは……、わからんが後でレェスを尋問し、エルリフィやミファから契約の石とやらについての話を聞けば、少しは何かがわかるだろう。その上、この世界で最も人口の多いこの街の80%以上の人間を守り抜くことができた。比べられるものじゃあないとは思うが、前の世界で起きた災厄を鑑みれば悪くない結果だろう」


 この世界に来た頃、白の前での世界の出来事を聞いたことがある。

 ほとんどはぐらかされたが、街が2つ3つ消し飛んだと聞いた。

 核戦争じゃないんだから、と思ったがこの顔を見ると本当の事だったみたいだ。


「じゃあ、人間としては?」

「もうわからないな。悲しいはずなのに、そこまで心が動かなくなってる。死体を見慣れ過ぎた」

「それはそれで不幸だね」


 白は一言、ああ、と言った。


「ただ言えるのは、はあ。あいつみたいなこという事になるとはな……」

「……?」

「もう後悔するだけ無駄だなってあるとき思ったんだ。俺はどちらかといえば結果主義者気味ではあるけどさ。ただ、結果はどうあれ、最善を尽くしたことも事実だ。最終、納得できりゃそれでいい。全部含めて結果だって」

「……強いなぁ」

「あー、まあ、もとはとある女の受け売りだけど」

「だとしてもそう思えるよう、生きてるわけでしょ? 強いよ白は」


 それに比べ私は……。

 こんなとこで、一人うなだれて、悲劇のヒロイン演じて……、何が超人だ……。


「ねぇ、白」

「ん?」

「私……」


 思いをぶつける。

次回以降も読んでいただけたら嬉しいです。

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