第一次フラウロウ災戦 (13)
大きな地響きが鳴る。
そいつの攻撃が地面を抉る。
融合蘇生の影響で復活を繰り返す魔獣を何とか最後の一匹にまで減らすことができた。
エルリフィが融合蘇生に気づき、フラウロウ内に簡易的な結界を敷いたらしく。その後はフラウロウ内で殺された魔獣についてはこの術によって復活しなくなった。
おかげで想定より早くここまで来れたのだが……。
「面倒なぁ、こいつぁーよ!」
最後に残った魔獣は、それまで倒した全ての魔獣の能力と力と肉体を持っているわけで、厄介極まりなかった。
まず生半可な攻撃では肉に阻まれて通らない。
そして攻撃は重く強く、一発当たっただけでも致命傷だ。
とはいえ弱点も多い。
まず、多くの魔獣をごちゃごちゃにかきまぜた影響で、頭脳が弱い。
そして、宝の持ち腐れというか、自身の能力を使いこなせていない。
つまるところ暴れるしか能のない肉塊ってことだ。
だからこそ、止めるのが大変でもあるのだが。
「神の一閃を使う余裕は今回はなさそうだしよ」
黒闘気力で強化した身体で体を削っていくのだが、正直山のようにおおきなこいつに対しては、焼け石に水だとしか思えない。
「しゃああない。全力で行く。分黒化(ヨグ=ソトース):50%」
敵の攻撃を避けながら、左手の親指の腹を軽く嚙みちぎり、血で右腕の内側に線を引いた。
するとその血液から無数の黒い触手が出てきて、俺の腕を包み込み、一回り大きい腕を形成した。
「っく。ちぃ!」
腕が黒に飲み込まれるのと同時に精神も黒く染まってゆく。
「さっさとぶっ飛びやがれぇええええ!」
黒い触手に纏わりつかれ、一回り二回り肥大化した腕でその怪物を殴る。
「ふぅ……、これで終わりだ」
一秒後、その怪物は爆発し霧散した。
ボトっ。ボトボト……。
時間差で空から肉の雨が降り注ぐ。
「ったく。やっと終わったってのに気分悪ぃな……」
気が抜け、気づけば地面に倒れていた。
「愛歌」
『ん?』
「俺の外に出ててくれ」
『なんで?」
体の内からではなく外から愛歌の声が聞こえるようになった。
これで気を失っても、愛歌までシャットダウンされない。
「ちょっと寝る」
「は?! や、やめなさいよこんなとこで。ばっちいわよ」
「くかぁー」
「もう……」
これで魔獣の代軍勢との戦いは終わったのだった。
*
しかしまだ、戦いは続いている場所があった。
カキィン! ガンッ! カンッ!!
ノアとトリカがフラウロウ全域で大立ち回りを演じていた。
「きゃは! 厄介なものだね!! どれだけ打ち込んでも通らなくて、そっちから攻撃して来はしないのに、逃がしてくれるつもりもないと来た」
「……」
「ねえなんで?! 少しは攻撃して来たらどう? そのままじゃ負けなくても勝てないよ」
「意味ないでしょ」
「は?」
「あなたは、座標転移が使える。ならどれだけ攻撃したところでどうせ逃げる。じゃああなたを長く牽制して他に行かせないこと、それが私の仕事」
「本当に、面倒だなぁ」
先ほどまで話しながら猛攻を仕掛けていたトリカが急に攻撃をやめた。
「っ?」
「どうやら、外の魔獣が全部倒されちゃったみたい。だから私の仕事も終わり。すごいねぇ、あんたのマスターも割とやるじゃん」
「……」
「あなたは私が殺す。またね」
そういってトリカが消えていった。
「はあ面倒……」
そんなノアの愚痴をもって、後の世に第一次フラウロウ災戦と呼ばれることになるこの戦いは幕を閉じたのだった。
やっとこの戦いも終わりました。
次回以降の話もよろしくお願いします