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第一次フラウロウ災戦 (3)

 白からしてみれば、この国は素晴らしい国だ。

 今まで自分の国を含めいくつかの国を渡り歩いてきた。

 その中でも特に素晴らしい国だ。

 望んだもの以外を徴兵することはない。

 多くの自由は確約されている。

 お金を貰えなくても構わないというなら労働の義務すらもない。

 なのにもかかわらず、国としてシステムが機能している。

 幸福度も高い。

 確かに一部の人間は不平不満を漏らすが、まじめに生きようとすればいくらでも幸せになれる。

 見る側面を変えれば、日本よりも住みやすいかもしれない。

 その国を直接生んだわけではないが、維持し続けていたのは、間違えなく誇るべきことだ。

 だからこそ。


「何言ってんだお前」


 そういった。


「もう疲れたのだ。楽になれるのなら、死にたい」

「……」


 白は一度戦いをやめ、天帝に近づいた。


「お前への批判があるからか? それとも天帝の仕事が自分に向いていないと思うからか?」

「……どちらもだ」

「そんなよ……」


 白はつい怒りで声を漏らす。


「そんなよ、自分の外側の理由と! 死にたいなんて、てめぇん中の感情を結びつけてんじゃあねえよっ!!」

「……?!」


 ミファは一瞬今言われたことが理解できなかった。


「てめぇが自分は周りから嫌われたり蔑まれたりしてると感じんのも、自身の理想と本来の自分との間で差が生まれて悩んでんのも、それは全部、てめぇが天帝の衣を羽織ってるから起きる摩擦だろ? じゃあそんなもん脱いじまえばいいじゃねえか」

「しかし……」

「そりゃあ、なんだって逃げりゃいいってもんじゃねぇとは思うけどな。死にたくなるぐらいなら辞めちまえよ、んなもん」


 それは甘い言葉だと彼女は思った。

 しかし、なぜだろう。

 その飴を素直に受け取り切れないのは。


「やはりだめだ。私は選ばれてしまったから、死ぬまではこの国に身を捧げると決めてしまったから……」

「……ち。ああ、そうかい。そりゃじゃ、てめぇの人生くらいてめぇで好きにすりゃいいけどな」


 さらに白が近づいて、彼女の胸ぐらをつかんだ。


「じゃあ、甘ったれたこと言ってんじゃあねえぞっ! 周りを見ろ! 今この国は未曽有の大災害に襲われているんだ! お飾りだろうとなんだろうとな、戦禍の中じゃあ象徴は必要だ! 天帝の名を持つお前が消えた瞬間、この国は死ぬんだよ! その瞬間、俺らの負けなんだよ!」


 そう吐き捨てた後、白はまた死神の方に対峙した。


「いいか? 今この瞬間においては、お前を助ける。それは俺がお前を助けたいからだ! お前が救われたいかどうかなんて、どーだっていい」

「そんな自分勝手な!」

「ああ、そうだ。俺たち超人ってのはそういうもんだ。いつだてその世界の人の都合関係なく、滅びだけを防ぐ自分勝手な存在なんだよ。文句言うならそのシステムに言え」


 白がもう一度剣を手に取った。

 

「一度てめぇの命を勝手に助けてやる。そのあとで死にたきゃてめぇも勝手死ね」


 不敵に死神に向かって歩いて行く白がそう言って、一瞬彼女を方を振り返った。


「でも、ま、俺は好きだぞ。お前が100年守ってきたこの国が。住みやすいとこじゃんか」

「え?」

「死ぬなら止めねぇけどさ。少しは誇りに思ってやれよ。100年も頑張った自分をよ」


 その言葉でせき止めていたものが漏れてしまったのだろう。

 彼女は涙を流してしまった。


「よかったのであろうか……」

「あ?」

「相が天帝でよかったのであろうか。この国は……」

「そんなんは俺じゃなくてこの国の奴に聞いてやれよ。そこのアルノとかさ」

「……」


 アルノをみる。


「ボクもこの町が大好きです」

「妾もじゃ。現在のフラウロウ、あの頃と同じように美しい。この様な夜でなければもっと心地よかったのであろうがのぅ」

「?!」


 白が見やったその先の大窓の縁には、見知らぬエルフの少女が腰を掛けていた。

次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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