開災の音が鳴る
30分ほど前。
「フラウロウの西側から魔獣の大軍が!」
アルノは城の中ではあるが愛馬に乗りながら、その事を報告しに玉座のある巫女の間に駆けこんだ。
後ろからファアニイたちが遅れてついてきている。
「!」
そこには、既に多くのエルフにその姿を晒してしまった天帝と、見慣れない男がいた。
その男は兵士たちに囲まれている。
「お初にお目にかかる。私は死神、正義の弾丸軍の幹部、銃把のグリンと申します。死にゆく皆様には不要かもしれませんが、以後お見知りおきを」
その男はその場にいる全ての人間に自己紹介をしている最中だった。
「正義の弾丸軍?」
それが今、ボクたちが敵対している組織の名前……?
と、ノルアは思った。
「さあ、始めましょうか……。死の饗宴をキッヒッヒッヒッヒ」
今、フラウロウ災禍が降り注ぐ。
*
そして現在。
私たちはフラウロウの上空から白の作り出した水闘気力の床に乗って、状況を確認していた。
「なに、これ……」
まるで糖に集る蟻のように、魔獣の大軍がフラウロウを蹂躙している。
フラウロウは結界が無くても大河の中に作られた天然の要塞だ。
それでも、フラウロウの各所では火の手が上がっている。特に西側の被害が酷い。
「夜空、お前は街に入った魔獣を倒しつつ市民の避難を手伝ってくれ。どうやら大樹の地下に誘導してるみたいだから、そこに逃げ遅れた人を助けて誘導するんだ」
「う、うん。わかった」
「ノアは夜空を下におろした後、街中の魔獣をとにかく少しでも減らしてくれ。あと、前から言っていた内通者が何かしているかもしれない。見つけ次第殺せ」
「了解、白は?」
「大樹の上階に何か嫌な気配がする。それを確認した後、街の外の魔獣の掃除に行く」
なるほど。
対軍戦に関しては、ノアちゃんよりも白の方が得意だって言ってたのを聞いたことがある。
それが一番いい采配って判断したのか。
「じゃあ、いくぞ。死ぬなよ」
「うん」
私たちはそれぞれ行動を開始した。
*
「はぁ……、はぁ……」
巫女の間にて。
(こいつ、強すぎる。)
グリンと対峙していた、アルノは傷を抑えながらそう思った。
「ふむ。よく立ち上がる……」
アルノはこの世界においては強者と言われる側の人間だ。
攻撃能力はそこそこだが、防衛の能力と長期戦ならピカイチだ。
そのおかげで30分も経った今でも立てているのはそれが理由だ。
「しかし、面白いとは思えませんね。偶には本気を出したいものですが。キッヒッヒッヒッヒ」
でももうこの場には味方がいない。
天帝以外のここにいた人間はファアニイたちも含め地に伏している。生きているかどうかもわからない。
アルノももうボロボロだ。あと何分もつかもかわからない。
「キミの目的は何……? なんでこんなことをするの?」
「あなた方人間は本を読んだり、ゲームをしたり、そういうことにいちいち意味を求めるのですか?」
「……」
つまり単なる娯楽や悦楽ってこと?
「じゃあ質問を変えるけど、キミの所属する軍はなんでキミに何を命令したの?」
「そう来ましたか。ええいいでしょう。1つはそこの天帝の殺害を、2つはこの大樹のどこかにある契約の石を回収に」
「契約の石……?」
後ろに庇っていた天帝が声を漏らす。
「天帝様、心当たりが?」
「ああ、だがしかし、この大樹にあるわけがない」
それは100年前、大陸のどこかに隠された秘宝だ。訳あって天帝本人もその存在と隠されたという事だけを知っており、どこにあるか、どんな形のものなのかは把握できていない。
「いえ、ここ一年以内にこちらの大樹に移されたと聞いています。ああ、そうか。あなた方もそれである、とは把握していないのですね。でしたら天帝エルリフィよ。殺す前に宝物庫のありか、お教えいただけませんかね?」
「それだけはならぬ……。それは……、代々の天帝と初代エルリフィへの冒涜」
「そんなこと言っている場合じゃ、無いと思いますがね!!」
突如、高速で動いた死神。死神はアルノを越え大鎌は、天帝エルリフィことミファの体を真っ二つにしようと迫った。
「天帝様!」
カキィーーン!
しかしその鎌はギリギリのところで止められた。
「わり、遅くなった」
白が剣でそれを受け止めたのだ。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。