記憶にない老人
階段を上った先の部屋は鍵穴の形をした部屋だった。言い換えるなら……、前方後円墳型というか……。
私たちが会談で登ってきたのはその台形の形のところだった。
同じエリアにもう一つ階段がある。愛歌たちが上ってくるとしたらそちらからなのだろう。
「来たか……」
そこの円形のエリアに歯一人の男が立っていた。
長く白いひげ、白髪、顔に刻まれたいくつもの深いしわ。かなり年を取っている。
しかしどうしてか、見た目の歳の割りに姿勢がよく、眼光はギラリと光り、油断できない相手だ、と思わせるには十分の気迫を放っていた。
「俺らの侵入に気づいてたんだな」
「もちろん。仮とはいえ、自分の住処にしている場所に侵入されて気づかないほど、このライグ、衰えておらんので」
?
なんだ。なんかちょっと話し方に違和感というか。
「で? あんたがブレストリガーなのか」
「左様。私を倒せば、ひとまずこの国に蔓延している災霜は消える」
ん? 魔霧のこと、災霜の方で呼んでるの? この世界の住人じゃなさそうだな……。
「塔にたどり着くまでの罠は? あんたが?」
「ループする空洞とこの塔に住む魔獣は私が置いたが、他は元からあったものだ。あなたなら気づいていたと思ったが?」
あ、わかった違和感の正体が。
この人なんか馴れ馴れしいんだ。まるで旧知の仲の友人に再開したみたいな……。
「?」
白も同じことに気が付いたようだ。
「それにしても久しいですな。白殿、夜空殿。まさか、このような世界を渡ったその果てでもあなた方に出会うとは。しかし今度は敵同士、因果な物だ」
「は?」
いやいやこんな人全く知らんですけど。
「は? 誰かと間違えてんじゃないのか、お前」
白も困惑している。
「間違ってなどおらん。青水白、魂源は消滅と流動。紅花夜空、魂源は座標と確定。どうだ?」
……え?
いや、まず白のを言い当てたとこから驚いたしわけわかんないけど、私の魂源ってそうなの? 知らなかったし、敵の言ってることだしあってるのか知らないけど、あってたんだとして、なんで知ってるワケ?
「……凄いな。そういう能力持ちか?」
魂源を看破する魂源ってこと?
「からかっておられるのか? 私の魂源は時間と並列だ。あなたもご存知のように……」
「?!」
自分の魂源まで言った?!
こいつ、本当の本当の本気で私たちを知り合いって勘違いしてるわけ?! 私たちを混乱させるためとかじゃなくて?!
「どうやら本当にこのムー王立魔法研究所長ライグを忘れてしまったらしい」
「だから知らねぇんだって」
「良いでしょう。そんなに言うのであれば思い出させてあげます。その赤い線の中に入ってきなさい。ただし、1人づつしか入っては来れませんので、順番はそちらでお決めなさい」
円形と台形の部屋その境には確かに赤い線が引かれていた。
結界となっているようで、その中と外では干渉し合えないようだ。
「どうしようか……?」
私たちは話し合いを始めた。
次回以降も楽しんでいただけたら幸いです。




