トリカ・チノハラ
その女の子は私たちの2人目の依頼人だった。
いや、しっかりと契約も報酬を受け取ったわけでもないので、正確には1.5人目とか言った方が正しいかもしれないが、とりあえず2人目ということにしておこう。
名前はトリカ。私もほとんど忘れていた人物だったので、また愛歌を呼び戻すことになった。(だいぶごねた)
記憶をたどると私たちより幾らか歳下に見えた女の子で、わたしたちの3人目の依頼人、トルレンスさんが不倫をしていた相手。
確か、妊娠したかもしれないので診てほしい、というものだった。私たちは霊力で体をスキャンするか、回復魔法の応用で簡単にわかるので、ちょっと調べて何もすることなくすぐにお帰り頂いたんだったと思う。
次にその女の子に近づいたのは、トルレンスさんの依頼でトルレンス宅に行く前だ。あの時は奥さんが不倫してる可能性があるからってその調査だったんだけど、その本人もトリカと不倫してたんであらかじめ調査しておき、今度は奥さんの方に決定的な証拠を売ったんだった。
愛歌からはその程度の必要な話ししか聞いてなかったが……。
「トリカ・チノハラ。現在は……、15歳か」
げ、中学生じゃん……。
やっばぁ……。
「シンノミヤの田舎出身。家族とはあまりうまく行っていなかったようで、あっちの成人である13歳の時こちらに1人でこちらに移住。現在は仕立て屋をやって生計を立てているみたいね」
うーん、まあ病みそうな生い立ちではあるか。
「あまり儲かっている様子はないけど、トルレンス夫妻の関係が修復したのを受け、店を畳まなきゃってとこまでは追い込まれてないみたいね」
「そこが不思議なんだよ。なんであそこ仲直りしたの?」
もう最悪のとこまで落ちてた気がするけど。
「50日に一度だけお互いが別の異性との身体的接触、つまり性交渉をすることまではただの欲求の発散として目を瞑る、って契約を結んで仲直りしたそうよ」
ええぇ……。
私だったらぜーーったい嫌だけどなぁ。
男女の関係ってのは色々形があるものだなぁ、なんて片付けていいものだろうか。
ってかそうなったのに、慰謝料もぎ取られたガイールが流石に不憫に思えてきた……。
「まあ、トリカ周りのことはこのくらいね。シンノミヤでのことはあまり詳しく知らないけど」
シンノミヤというのはこの大陸からみて、遥か北西に位置するアマノク大陸を支配する国だ。
「まあとにかく、一度トリカの仕立て屋に行ってきたらいいんじゃない? 話聞いてくれば?」
と言われて場所を聞いて行ったはいいものの、その店にはトリカがいなかった。
閉店してるとか、定休日とかってことじゃない。店はそのままに、トリカだけ消えているようだった。
近所の人に話を聞くと、魔霧が発生する少し前から失踪しているのだという。
結局何もわからないまま、私たちはルトナ湖の調査に向かうのだった。
次回も読んでいただけたら幸いです。