喧嘩
大樹に呼び出された翌日のこと。
「え? なんで?」
私は白に問いかける。
「なんでってそりゃ、早めに魔霧を消せた方がいいだろ?」
白が当然とばかりに返してくる。
そう。調査の方を先に優先する、と白が言ったのだ。
「それはそうかもだけど……」
私としては手紙の方を優先したいと考えていたのだ。
「魔霧が無くなってからならそういった依頼も安全にできるしな。先に魔霧を消す方を優先しよう」
「でもさ! ルトナ湖の塔にブレストリガーがいるって話も、そもそも今回もブレストリガーがいるって話も全部憶測でしかないよね?」
「ああ、そうだな」
「それに、もしそれらが本当だとしても、塔に行く方法を見つけるまでに相当の時間がかかるかもしれない、だよね?」
「うん、そうだ」
何でもないかのように返してくる。
「昨日、私は街中で現れた魔獣に殺されてしまった人たちを見た。きっと、セミさんも不安なんだよ。そういうことが起こりえるようになっちゃったから」
「でもそれは手紙1つ届けたとこで変わらないだろ?」
「あっちでルトさんにも手紙を書いてもらえば、それだけで一回のコミュニケーションは取れる。それくらいやってあげようよ!」
「でも、それで解決、じゃないよな。同じ状況は起こりえる。魔霧と、もう一つ、街に潜んでる敵の内通者を見つけない限りな。それじゃあ意味ないだろ? それともあいつらが満足するまでなんども飛脚の真似事でもするつもりか?」
「そうじゃなくて! あーもう! 白はわかってない!」
「わかってるよ。いつ死んじまうかわからない世の中になってしまった。だから、あの二人に一度でもコミュニケーションを一度取らせてやって安心させてあげたい、だろ?」
「う、うん。そうだよ……」
え、伝わってはいるの?
「で? じゃあどうすんだ? って聞いてんだ。同じ状況の奴はごまんといるぞ。全員に話を聞くつもりか? そんなことやってるうちに昨日みたいな事件が2度3度起こって、次は本当に知ってる誰かが死ぬぞ」
「そ、そういうんじゃなくて」
「知ってる奴だからって肩入れするのもいいけどな。本当に救える可能性のある方を少しは考えるべきで」
「はあ?! 考えなしだって言いたいわけ?!」
「そうじゃなくて、共感するだけじゃ救えるわけじゃないぞっていいたいわけで」
「そういう白だって、少し冷たくない?!」
「はいはい、すとーっぷ!」
静かに見てた愛歌が割って入ってきた。
「ほらほら二人とも、仲間なんだから仲良くしないと。そんな風に言いあってたって、話は前に進まないよ。今はそんなことやってる場合じゃないでしょ」
「う、ごめん」
「いや、俺も無意識で悪く行っちゃってたかもな。わり」
ちょっと頭に血が上っちゃってた。
「うんうん、それでよろしい。ここはいつも通り行きましょ。白と夜空は手紙を届けに行って。私とノアちゃんでルトナ湖への調査に行ってくるから。それでいいでしょ」
愛歌の提案で、そんな風に行動することに決まった。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。