ブレストリガー
帰ると何やら白たちが出かける準備をしていた。
「? こんな時間からどうかしたの?」
もうあと一時間くらいで日が沈むかってとこだけど。
「天帝から急なお呼び出しだ。お前が帰ってきたら行こうと思ってた」
「ああ、わかった。すぐ支度するね」
すぐに軽く支度を済ませそこを出た。
道中、依頼を受けた話をする。
「手紙を届ける? ルトに?」
白が訊き返してきた。
「そう。やっぱり、不安なんじゃないかな。街に魔獣が出たりしてるし」
「……。そうか。まあ、時間があったらな」
大樹に入り、天帝のいる部屋を目指した。
そこには天帝と。
「お、夜空ちゃんさっきぶりだね」
アルノとファアニイがいた。
「急に呼び出してすまない」
「黄金鉱に問題があった、とかじゃーなさそうだな」
「ああ、そちらの方は問題なかった。この町を覆う結界の強化も先ほど終わったところだ。あとは、他の街にも届けるだけだ」
白と天帝がそんな話をしているなか、私たちは席に着く。
「此度はこちらの二人が面白い情報を持ってきてくれた」
「面白い情報?」
「そう。新聞の小さな記事にあったの。ルトナ内海湖は知ってるよね」
「大陸最大の湖だろ」
そうそう。フラウロウからみて北西にある湖。行ったことはないけど、有名な観光地だ。
このフラウロウに流れる川もルトナ湖から来てるって話だ。
「ボクたちが死神の札とかって組織と戦った後くらいからかな? 時々その中央から強い発光現象が見られたんだって」
「発光現象?」
「そう。最初目撃されたときは雨の日だったから雷かと思われたんだけど音がなかった。そしてそこから数日おきに……。頻度は上がっていてって、。魔霧が散布される前にはほぼ毎晩、数度になっていたみたい」
湖とか川とかみたいな水辺って、何かそういう話都市伝説的な話多いよね。ネッシーとか河童とか。
「そして、相も暗黒期当時の文献を読み漁っておったのだが、とある発見と共に、その話との奇妙な一致が見られた」
なんでも当時、魔霧の散布には三大陸それぞれに配置された魔王の部下、ブレストリガーと呼ばれる者によって発生、維持されていたらしい。
今回も同じなのであればそいつを倒せばとりあえず、今の事態は一旦収束する、というわけだ。
そして勇者様が暗黒期にブレストリガーを倒したのが、そのルトナ湖中央に位置する塔だった、というわけだ。
「でも確かあの塔って立ち入りできないんじゃなかったですか?」
アルノが天帝に聞く。
「どういうことだ?」
「魔法的空間障壁があの塔の周りに合ってな。船で行こうと泳いでいこうとあそこに近づくことができんのだ」
「え? じゃあ、勇者様はどうやって行ったの?」
「それがわからないのが問題でな」
はあ、ちゃんと書いておいてよ過去の人……。
「暗黒期が始まったのはもう何百年と昔だ。同じような発光現象があったのかは定かではないが、調査してみる価値はあるだろう」
なるほどね。
「というわけだ。そなたらも時間ができ次第そちらに向かってほしい」
「ボクたちは一旦ガイールたちが帰ってくるまで情報収集してから向かうことにするね」
そういってアルノたちは出ていった。
「リーフさんもここに来たんですよね?」
「ああ、彼女にも伝えた。妹が向かった場所を先に調査してから一緒にそちらへ向かうそうだ」
なるほどなるほど。
「じゃあ、もう一ついいですか?」
「なんだ?」
「あの。街中に魔獣が入ってきたのは知ってます?」
「ああ」
「原因はわかりますか?」
「……いや、まだわかっていない。奇妙なのは、結界を強化したあとに事件が起こったという事だ」
じゃあ、外から来た魔獣じゃない。
そもそもあれはこの世界には存在しない未知の魔獣だった。
「つまり」
「そう。敵の内通者、それがこの町に潜んでいるという事。そして白の言った通り、それが新蜂、もしくはその仲間である可能性が高い」
そいつがどこかからか引っ張ってきた魔獣をフラウロウ内に入れた。
……でも何の目的で?
「とりあえず、諸君らも気を付けてくれ」
私たちは大樹を後にした。